第10章 魔女と炎
館を出ると
そこにはジンが立っていた。
「なぜ、あなたが?」
「いちゃいけねぇーのか?」
視線と視線がぶつかり合う。
何故、ここにジンがいるのか
この暗殺は僕とアイリッシュとベルモットの3人で遂行し
他言無用のミッションだったはずだ。
「ジン、なぜこの場所にいるんですか?」
「アイリッシュ。起きろ」
僕の言葉を無視し、ジンが彼女を呼ぶ。
そして
ジンの手が彼女の頬に触れた。
その払い除けたくても
彼女を抱きかかえているため両手は塞がっている。
久しぶりだ。
これ程までに怒りが込み上げてくるのは
『・・・・ジ・・ンか・・・』
ジンの呼びかけに応えるように
彼女は苦しげな声を発した。
「アイリッシュ。迎えに来たぜ?」
『ほぉ、それはご苦労なことだな』
アイリッシュが僕の腕から離れようとしている
彼女を放したくない
行くなと引き止めたい
そして、真実を確かめたい
貴女は本当に咲哉なのか。と
彼女を抱える腕に力が入る。
『バーボン、私は大丈夫だ。助かったぞ』
アイリッシュは笑顔でそう言うと
僕の腕から離れていった。
貴女は僕の心が詠めているのか・・・
その笑顔は正しく
まだ幼かったあの頃に見たことのある
咲哉の笑顔
僕は確信した。
アイリッシュは咲哉だ
嬉しくもあり
苦しくある
これは
真実。
咲哉はジンの後を追うように背を向け去って行く
気持ちの整理がつかない
ただ、その背中を見つめることしかできない。
すると
突然、彼女が振り返った。
『ありがとう。零。』
微笑みながら
声には出さず
口だけを動かして
僕だけに宛てられた言葉。
あぁ・・・
公安の人間として
一人の男として
僕もまだまだだな。
たった、一人の女性にここまで心を乱されるなんて・・・。