第10章 魔女と炎
前が見えなくなってきた。
そろそろ自分も危ないかもしれない
引き返すか否か…
しかし
もし、この先に彼女がいたら…
引き返した事を後悔する!
「アイリッシュ!」
返事はない
やはりコチラにはいないのか…
その時
煙が充満している廊下の奥に人影が見えた
今にも倒れそうにフラフラと壁伝いにこちらへ進んでいる
確信はなかった
この人影が彼女であって欲しい
純粋な思いでその名を叫んだ。
近づけば近づくほど
人影が形を成してくる
その人影は
まさしく
探し求めていた彼女だった。
「アイリッシュ!!」
急いで駆け寄る
彼女は体中煤まみれ
相手に乱暴をされたのか
何も身に纏っていない
倒れそうになった彼女を支え抱き上げる
薄っすらと開いた瞳と目が合った
「アイリッシュ!!」
『バカめ…命…を…む…たな……い』
意識を失う前に辛うじて紡がれた言葉
彼女の瞳は
懐かしい
あの優しい金色だった。
高鳴る鼓動を感じる。
ダメだ
まだ、ダメだ
今は思い出に浸る時間も
彼女の真実を確かめる時間もない
早急にこの場から逃げなければ
僕は上着を彼女に掛け
その体を抱き上げると館の外へと急いだ。
生きていれば
生きてさえいれば
いくらでも時間はある
どうか
死なないでくれよ…咲哉