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とある組織の黒い魔女 【名探偵コナン】

第6章   魔女と名前


時間の流れは残酷だ
皆、平等に過ぎていく

辛い時も
幸せな時も

狂いもなく平等だ。



『じゃぁな』

そう言って咲哉は玄関のドアノブに手をかけた。
終わってしまった時間を振り返る。
彼女のことを知り、彼女のことを愛した時間。


可能なことならば
【行くな】と言いたい

そのまま、抱きしめて
この思いを伝えたい。

しかし、不可能なのは分かっている。

お互いの立場
現実があるからだ。


「どうした?赤井?」


すぐに返事をしなかったためか
咲哉が俺の顔を覗き込む。


『いや、なんでもない』


ちゃんと、表情は作れていただろうか
平然を装うことはできていただろうか
鋭い彼女のことだ
きっと、気付いているだろう。


『赤井は少し変わったな。初めて会った時より、なんだか少し柔らかくなった気がする』


そうしているのはお前だ。
心の中で呟く。


「咲哉がそう感じているのなら、そうなんじゃないか?」


答えになっていない答え。
我ながらずるい返答だ。


『じゃぁ、変わったとういうことにしよう』

咲哉はフフッと微笑みその手に力が込められる
現実への扉が開こうとしていた。


「おい、咲哉」

思わず呼び止めた。
無意識だった。


『あぁ、すまない。礼を忘れていたな。赤井、お前との時間は楽しかったぞ。ありがとう』


花が咲いたような笑顔を向けた咲哉
そんな礼などいらない。
欲しいのは咲哉
お前だ。


『じゃぁまた。忘れるなよ』


「あぁ」


現実への扉が開き
咲哉吸い込まれるように外へと一歩を踏み出す

遠ざかる背中
手を伸ばしたらまだ届く距離ではある。
しかし、それはできない。


夢の時間は終わったのだ。



組織への報告・FBIへの報告
組織の人間の状況を把握し
正体を知られないように細心の注意を払い行動をしなければならない。
やらなければならないことは山ほどある。

彼女が居なくなり
物音ひとつない静か過ぎる部屋
先程まで咲哉が座っていた椅子に指を滑らせる。


記憶に焼きついた愛しい笑顔
そして
去り際に放たれた言葉を思い出す。


【忘れるなよ】

「あぁ、忘れないさ」

俺の声だけが部屋に響いた。

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魔女と名前 ②口約束
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