第4章 魔女と人間
はっと我に返るととライはアイリッシュの髪を洗っていた。
『♪~♪~~~♪』
鼻歌を歌い上機嫌なアイリッシュ
快適なバスタイムだ。
「俺にここまでさせた女はお前が初めてだ・・・」
腕を泡だらけにしながら愚痴をこぼすライ
しかし
その心は素直だった。
なぜか彼女の喜ぶ姿がみたくなり
気が付けば、彼女を中心に自分が動いてしまう
長らく忘れていた感情
それをたった一晩で思い出させるなんて
俺はやっかいな魔法にかかってしまったようだ・・・
アイリッシュ
『なぁ、ライ』
「なんだ?」
ひと通り洗い終わり
湯船の中からアイリッシュが声をかける。
ぼーっとひとりで浸かってっていかせいで顔が赤い。
ライは腕についた泡を洗い流し浴室から出てタオルで濡れてしまったところを拭きながら返事をした。
1つドア越しの会話だ。
『前から思っていることなんだが・・・なぜ人間は自分から危険な道へ進むのか?お前もそうだろう?』
『この世界は死にたがりの集まりなのか?』
さっきまでの口調とは違う
低いトーンの声でアイリッシュは静かに続ける。
『それとも、死ぬことがこの世界で一番の美徳なのか?』
『老いることも死ぬこともできない私には分からない』
『ライなら・・・わかるか?』
扉越しだか、感じ取ることのできる。
僅かに震える声
死にたくても死ねない
終わることのない【生】という名の鎖
目の前で老い、死んで逝く人間たちを
彼女はどれだけ送ってきたのだろうか・・・
「少なくとも、俺は死にたい人間ではない」
ライの低い声が響く。
ザバッと水の音がした
アイリッシュが湯船から出たようだ。
『・・・・では、なぜ素性をかくし組織にいるんだ?』
核心を突いた問いだった。
ーーーーーーーーーーーーー
魔女と人間 ③悪戯の先にあるもの