第3章 騎士団長には敵わない
「ランスロット、オイお前何を言っている?私とヴェインが?結婚?何を馬鹿な事を言っている。そしてお前はなんだ?どういう立場で付いてくる?」
長く整ったまつ毛の奥で双眸がくるりと斜め上を向く。
「うーんそうだな。……やはり愛人、だろうか?」
人差し指を立てややはにかむように答える。理解の追いつかないこの状況に私は目眩を覚えた。これは新しいジョークか何かなのか。
「おいランスロット、こんな面白くもない冗談を言うために呼び付けたのではないだろうな」
「フフッ、怒るときの台詞がパーシヴァルそっく…うわっ!投げるのはやめてくれ、そこの本は借り物なんだ!」
魔力により加速した何冊もの戦術書がランスロットに襲い掛かるが、奴は無駄の無い動きで叩き落とし直撃を避ける。
こういう器用さにさえ今は堪らなく腹が立つ。
「帰る。お前が結婚に向いてない事だけはとても良くわかった。ヴェインのアップルパイは冷凍してグランサイファーに送ってくれ。じゃあな」
言い捨て勇んでドアノブに手を掛けたつもりだったが、その手は悲しく空を切る。
「ランちゃんたっだいま〜って、えっ!?うおおぉっ!?来てたのか!」
勢いよく開いた扉の向こう、見慣れた甲冑を纏ったもう一人の友が現れた。
「ヴェイン、元気そうで何よりだ。会えて嬉しいよ。帰って早々悪いがそこの騎士団長様は働き過ぎでとうとう頭がイカれたらしい。ひと月程アウギュステで休ませてやったらどうだ?」
「ヴェイン、の言うことは気にしなくて良いぞ。それよりお前にも聞いてもらいたい大事な話があるんだ」
「おい!あのトンチキ話をヴェインにも聞かせる気が!?」
「トンチキ?俺の考え得る限り最善の方法だと思うんだが」
「ハイハイ、ストーーップ!ストップ!!話は後でゆっくり聞くから二人とも落ち着けって!」
一先ず、ヴェインには風呂でも浴びてきてもらう間に私とランスロットで部屋の片付けをしておくという話になったのだが。
結局風呂上がりのヴェインは、更に散らかった部屋を片付けることとなっただけだった。