第3章 騎士団長には敵わない
「さーて、茶でも淹れてくるか!はオレンジ系のフレーバーティー好きだったよな?最近イチオシのヴェイン特製ブレンドがあるんだぜ」
「……ヴェインのオススメで頼む。何から何まですまない」
「俺も好きでやってることだからいいっていいって!気にすんな!あっ、ランちゃんはいつものやつでいいよな?」
「ああ、ありがとうヴェイン」
暫く待つと華やかな香りを伴ってヴェインは戻ってきた。
そしてランスロットはヴェインに向けもう一度同じ話を繰り返す。
「けっけっけっこ、けけ!?お、おっ俺とが、ケッコン!?」
両の手のひらで顔を覆う仕草はまるで初心な娘子のようだった。
しかしそれこそが100%予想通りの反応であるが故、私は気にも止めずグラニュー糖がまぶされたクッキーをサクサクと頬張っていた。
「ほらヴェイン、嫌なら嫌とちゃんと言ってやれ。その頭の固い幼馴染は絶対にわかってくれないぞ」
「いや、そんなッ、ち、違くて。俺は、その……全然……いっ、嫌とかじゃ、ないんだけどさ」
指の隙間からチラリとコチラを覗う潤んだ瞳。
「うん、よし。ヴェイン結婚しようか」
「待て、俺はどうなる」
「知るか!だいたい何でも器用にこなすのに何で私生活だけこんなに不器用なんだよ!27にもなって!」
「あのさッ、俺思うんだけど……ランちゃんとが結婚するじゃ、ダメなの?全部丸く収まると、思うんだけど……」
ランスロットはその金髪を拳で優しく小突いた。
「ヴェイン、そうなったらお前はいつか俺達に遠慮して距離を置く。それじゃ駄目なんだ」
「えっ、そ、そんなこと」
「俺達がお前を一人ぼっちになんかさせない」
ヴェインは驚いた様子だったが、ゆっくりとその言葉を噛み締めるように頷いた。瞳に薄っすらと涙を浮かべて。
「そんなのズルいよ、ランちゃん……」