第9章 ヘイアン国
「それで脅しているつもりか? お前の代わりなどいくらでもいる」
「もっと強い人形が欲しいんだろ。――これより強いのが」
片腕を落とされた歌姫を見やり、蝋人形はわずかに目をすがめた。
「お前に作れると?」
「作れる。国だって落とせるようなやつを」
「――いいだろう」
指先が溶けるのも構わず、蝋人形は導火線の火を消した。
「ウニ、やめろ……っ」
クルーに助けられたくなかった。船長こそが乗組員を守らなければならないはずなのに。
「クビになったって聞かない。……あなたの命はスイレンが助けたんだ。死なせるわけにはいかないんだよ」
(畜生……っ)
命を助けられた恩を、そいつの一番大事なものに返すと誓った。
こんなところで這いつくばっているわけにはいかない。ローは自分の腕を地面に縫い付ける愛刀を抜いて立ち上がろうとしたが、血の混じった咳がこぼれるばかりで思うように体は動かなかった。
刀を抜いたのは満身創痍のリトイだった。歌姫に蹴り飛ばされた時に折れたのか、左腕があらぬ方向に曲がっている。頭から出血した血が目に入って、見えづらそうだった。
「ブラッドリー……!!」
片腕でやっと刀を構える少女を、蝋人形は面倒臭そうに振り返る。
「レジスタンスを主導していた小娘か。いいザマだな」
「何の権利があって私達の国をめちゃくちゃにするのよ!! ここは神の眠る平和な国だった! お前さえ来なければ……っ」
「イナリを殺して平和は続いていた、か? お前らの語る『平和主義』にはヘドが出る!」
「黙れ……!!」
鬼哭を握ってリトイはブラッドリーに飛びかかる。自爆人形が至近距離で爆発しても彼女はひるまなかった。
蝋人形の首が斬り飛ばされる。だが人形はそんなことでは死ななかった。
「小娘を殺せ!!」
付近の人形たちが一斉にリトイに群がった。
(あのバカが……っ!!)
刀を捨ててリトイは走るが、逃げ切れるわけがない。能力でローはリトイを逃がそうとしたが、どんなに力を入れてもROOMが広がらなかった。
「今のうちです、早く……っ」
ローに肩を貸して連れ出そうとしたのはハンゾーだった。
「お前……っ」
「急いでください、私は肉体労働向きじゃないんですよ……っ」
半ば背負われるようにしてローはハンゾーに連れて行かれる。