第5章 何が為に
「聞いたかよ!近くの遊郭の見世で心中だってよ!!」
その話を聞いた時、俺の心臓は氷を当てられたかのようにヒヤリとした。
陸軍幼年学校 第一学年
教室内で騒がれるそれに耳を澄ます。
「放火で心中とか、中の遊女巻き込む気かよ!」
「営業中に放火だってよ!身請け寸前の遊女が最期の抵抗って!その見世の遊女の全員が死んだって!」
「禿とか新造も死んだんだろ?俺らとそんなに年変わんねーよな……」
すると、そいつらの中の一人が呟いた。
「なあ、今日行ってみねえ?」
「え、まじ?先生らに怒られねえ?」
「バレなきゃ大丈夫だって、なあ
勝己」
「ああ?」
聞いていなかったフリで、振り向く。
「てめぇら、なんの話ししてんだよ」
「聞いてなかったのかよ勝己!心中だって!遊郭で放火の心中!やばくね?」
「やべえも何も、よくあんだろ。何そんな興奮してんだよ」
「ちっげえよ!!遊郭の遊女全員で口裏を合わせて心中したんだよ!花魁から 新造まで!!」
「ああ?」
計画的犯行。
「なあ、行ってみねえ勝己!」
「……門前払いだっつの」
「あー、やっぱり?」
だよなあと脱力するこいつらを横目に、教本を閉じる。