第4章 感謝を
俺は裏を返した。一言文句でも言ってやろうと。
何故あんなにも言ったのに初会は箸をつけなかったと。しかし、女は広間に入ると、直ぐに鈴のなるような声でコロコロと笑い出したのだ。
「まさか、初会で遊女に飯を食えというなんて」
思ったことを口にしただけだというのに、女は笑うのをやめなかった。
本来であれば、その会話すらも仕来りからは外れるらしいが、女はそれでも嬉しそうに
ただ、笑っていた。
「また来て くださいな」
話に聞いていたのとは違う、朗らかな女と思った。
雪のような冷たい見た目に、春のように暖かな女だと。
そこからは、よく通った。
馴染みになり、幾度となく冷と肌を重ね合わせ、床を共にした。
「白い女」冷は不気味だと言われてはいたが、俺はその美しく白い髪が好きだった。
「炎司様は無愛想すぎます。そんなんだから、部下に恐れられるのですよ」
余計な事まで口にする娼婦。
煩いと思いつつも、俺はそれがどうにも、心地よかった。
冷には、いい人がいるという噂があった。
それを知って尚、俺は冷を手放すことができなかった。寧ろ俺は嫉妬にこの身を焦がしていたのだ。
あの見世の 男娼か
それとも側の 若衆か
他所の 客か。
「私には貴方だけです」
口先だけならば、どうとでも言える。
遊女はそれが仕事だろう?
……………俺は冷に何も言わず、見世の楼主に言って身請けした。
冷は拒んだが、それでも無理矢理身請けした。
それからはわかるだろう。冷はうちの者たちに元遊女として散々な目に遭った。
「それを俺は………轟の女なら耐えてみせろと
言って突き放したのだ。あの時もし、もしも冷に手を差し伸べていれば、冷がおかしくなることはなかった。冷が焦凍を責めることもなかったというのに、俺は………!
冷はきっと、俺を恨んでいるだろう。轟の女と突き放した俺を、愛しい者から引き離した俺を、あの日冷を呼んだ俺を!!だからあいつは焦凍をっ………!」