第4章 感謝を
やわらかな座布団の上に座ると、奥様はニコニコと私を見ながら、桐の箱に入れられた栗饅頭の一つを手に取りました。
「ほら、すずめも食べて」
「い、いただきます………」
あまりにも和やか。
「丸中屋の栗饅頭、私大好きなの。栗餡がコックリしていて……上品な甘さよね」
「あの、私は何故、ここに呼ばれたのでしょうか」
「言ったでしょう。お話がしたいのって」
しかし
「違いますよね」
失礼なことは重々承知しつつ、私は口を開きました。
真っ直ぐと、彼女を見つめて
「………本当はね、焦凍を変えた子が、どんな子か見てみたかっただけなの。ただ、貴方を見たらなんだか昔の私を思い出しちゃって」
奥様が、私の黒い髪に手を伸ばします。
「………どれくらい伸ばしてるの?」
「遊郭に入ってからは一度も切っていないので、もう7年になります」
「そう。7年…………辛かったでしょう」
「………」
遊郭の頃の、嫌な記憶が蘇ります。
辛くなかったと言えば 嘘になります。
「けれど、私よりも辛い思いをしている方は沢山います。冷様、貴方も」
すると、その美しい灰掛かった黒い目が、大きく見開かれました。
「無理に聞くことはしません。言いたくないことは言わなくてもいいんです。冷様、焦凍坊ちゃんと冷様の間に何があったのか、聞かせて貰えませんか」