第3章 邂逅
「悪いか」
ぶっきらぼうに、そう言いました。
「まさか!むしろこんな一使用人を気にかけていただき、光栄です………って、それよりも食事を!」
冷めてしまいますと慌てて坊ちゃんの座る場所の前に運ぼうとすると、彼は慌てなくていいと声をかけました。
優しい、声で。
「本日は芋粥と野菜の煮付け、それと大根の味噌汁です」
そっと、坊ちゃんの前に膳を置きます。
「最近は、歌わねえんだな」
「そうですね。やる仕事も増えてきましたし、唄ってる余裕も最近はありませんから」
すると坊ちゃんは少し困ったような顔をしてゆっくり口を開きました。
「そんなに忙しいのか」
「忙しいというか、覚えることが多いです。まあ、新参なので仕方ありませんが」
掃除から、来客時のお茶出しまで。
そう考えると、遊郭の若衆達はテキパキと動いて凄い方達だったことを思い出します。
「…………疲れたら」
「はい?」
「いや」
「?」
坊ちゃんは何か考えるように口元に手を当てて、目を膳へと向けます。
「唄が聴きたい」
「へ?」
ゆっくりと、その翡翠と黒の目が私に合わされます。
「そうだ、唄が 聴きたい」
「え、今ですか?」
唐突な希望。それに狼狽ますが、その目にジっと見つめられたら、歌わないわけにはいきません。
観念して私は息を吸うと、いつもの歌を歌いだしました。
「〜〜♪〜♪」
坊ちゃんはそれに、静かに耳を傾けてくれています。
「ーーーあの人は手毬を拾って 私に笑いかけるのです」
歌い終わるも、坊ちゃんは何も言いません。
気でも悪くしただろうか。
「唄が上手いわけじゃねえ」
言われた言葉に、私は目を丸くします。
「けど、お前の歌は 好きだ」