第1章 バレンタイン小説(手塚・彼女目線)
「急ぎの用があるからわざわざ男子の部室まできたんじゃないのか?」このまま黙っていられないような空気に私は「チョコ…」とだけ呟いた。
「チョコ?あぁ、今朝机に入っていたこれのことか」手塚君は鞄からチョコを取り出した。
「それ入れたの私なんだ」手塚くんがどんな顔してるか見るのが怖くて顔があげられない。
「香住がこれを?すまない、まだ中身を見ていなかった。開けてもいいだろうか?」私は無言で頷く。「手作りのようだが香住が作ったのか?」私は頷く事しか出来ない。「今ここで食べてもいいだろうか?」
手塚君の問いかけに声を振り絞って「どうぞ」と答えた。私の答えを聞いて手塚君はチョコを1つ食べた。
「美味いな」手塚君は私が作ったチョコを次々に食べてくれた。私はようやく顔を上げることが出来、チョコを食べる手塚君に見とれていた。
「美味しかった。早起きして作ってくれたんだろ?ありがとう。香住いつでも一生懸命だな。部活も委員会も」いつも無表情な手塚君が一瞬微笑んだ気がした。
「え?」一瞬見た手塚君の笑顔に頭が真っ白になり手塚君の言葉が頭に入ってこない。
「テニス、毎日遅くまで頑張っているようだな。帰りによく姿を見かける。学級委員の仕事もちゃんとやってくれて頼りにしている。1年のクラブ見学の時、見に来てただろ?あの時の俺はもうテニス部に入るつもりで体験入部してた。実はあの時俺は左利きなのに、右手で試合をしていた。対戦した先輩の実力を考えて右手で試合をしたのに、香住に強いんだねって言われて複雑な気持ちになった。俺は全力で戦ってないのに、そんな試合を褒められて居心地が悪くて、まともな返事が出来なくてすまなかった。それが気になって気がついたら香住を目で追うようになっていた。ようやく謝ることが出来た。そしてこれはチョコのお礼だ…」手塚君の顔が目の前に迫ってきて手塚君唇が私の唇に触れた。そしてそのまま手塚君に抱き締められた。