第3章 ライバル(手塚&跡部)
しかし、暴れる犬を抱えながらリードを引っ張る少年になるべく負担がかからないように泳ぐのは想像以上に手塚の体力を奪っていく。
『あと少し…あと少しだ…』
あと少し河原に向かって泳げば流れが緩やかになる。しかし、手塚の体力は限界にきていた。
『こいつだけでも助けないと…』
手塚は残りの力を振り絞って犬を河原のほうに投げた。犬は水面ギリギリを飛び流れが緩やかなところに着水した。
『よかった…』
犬の安全を確認して安心した手塚は体力を使い果たし意識を手離した。
意識を失った手塚の体はあっという間に下流に流されていった。
「お兄ちゃん!」リードを引っ張っていた少年が叫ぶ。
「後は俺様に任せな!お前ははその犬の心配だけしてな」ヘリの扉を開けて跡部が叫ぶ。
犬を無事に救助した少年は犬を抱き締めながら頷いた。
ヘリから縄梯子を降ろし跡部が降りてくる。
『お前は相変わらずだな。もっと自分を大切にしやがれ!俺が謝るまで無事でいてもらわなきゃ困るんだよ…。このままだんて後味悪過ぎじゃねぇの…』
跡部は縄梯子の下の方にぶら下がったまま手塚の姿を探す。
『まだそんなに遠くには流されてないはずだ。この先には滝がある。そこまで流されたらアウトだ。それまでに俺が必ず見つける!』
祈るような想いで手塚の姿を探す。
「いた!!」
手塚は滝の手前わずか数メートルのところにある岩の隙間に服が引っ掛かり辛うじて止まっていた。
『危機一髪じゃねぇの。悪運の強い奴だ』
跡部はトランシーバーでヘリに指示をすると持っていたロープで縄梯子と自分の体をしっかりと固定した。
ヘリは縄梯子が川面に着くくらい高度を下げた。
『まだ流されるんじゃねぇぞ』
跡部は必死に手を伸ばす。
「もっと高度を下げろ!」トランシーバーでヘリに指示を出す。
「でも、それでは跡部様が川に流されてしまいます」跡部を心配して操縦士は指示に従わない。
「梯子に体を固定してあるから大丈夫だ。モタモタしてんじゃねぇ!手塚が流されるだろうが!早く高度を下げやがれ!」鬼気迫る跡部の怒鳴り声に操縦士は更に高度を下げた。
跡部は肩まで川に浸かりながら手塚に近づき手塚を抱き締め、片手で岩の隙間に引っ掛かっている服を引き抜いた。
「上げてくれ」跡部の指示でヘリは高度を上げ、近くのキャンプ場に緊急着陸した。
