第3章 ライバル(手塚&跡部)
その日の夜、自室で跡部は考え込んでいた。
『手塚にはドイツでプロになってもらいたい、そしてプロになった手塚に勝つ!それこそが俺様に相応しい勝ちかただ。だから手塚に余計な心配はさせたくねぇ。今はプロになることにだけ集中してほしい。だけど昼間は少し言い過ぎたかもしれねぇな。たまには息抜きも必要だよな…』
手塚は跡部に言われたことが頭を駆け巡り、モヤモヤした気持ちをスッキリさせるために、翌日、釣りに出掛けた。
『釣りをするのも久しぶりだな。ドイツでは釣りをする時間がなかなか取れなかったからな』
手塚は釣糸をたらしながら跡部に言われたことを考えていた。
『俺は無神経だったんだろうか…。仲間が心配で顔を見たいと言うのは俺の我儘だったんだろうか…。プロを目指して歩き出した俺は皆にとっては疎ましい存在なのだろうか…』
大好きな釣りを楽しむ余裕が無いくらい手塚は悩んでいた。
「助けて~!誰か助けて~!」考え事をしていた手塚の耳に助けを求める少年の声が聞こえてきた。
手塚が辺りを見回すと上流から白い犬が流れてくるのが見えた。
手塚は犬の姿を確認すると足場にしていた岩から迷わず川に飛び込んだ。
流れに逆らうように少し泳いだところで犬を捕まえる事ができた。中型犬で抱きかかえるのは難しくはないが、犬はパニックになり暴れている為、抱えたまま岸まで泳ぐのは難しそうだった。手塚は犬についていた首輪から長いリードが伸びているのに気がついた。
『飼い主はこのリードを離してしまったんだな』
手塚は犬を追いかけて川沿を走っていた少年に向かってリードを投げた。
「それをどこかに縛り付けろ!外れないように結ぶんだ!」手塚は大声で少年に指示する。
なんとかリードをキャッチできた少年はリードを結べる場所を探す。 手塚は少年がリードを結びやすいように流れに逆らって泳ぎ続ける。 少年は近くにリードを結べそうな木を見つけ、リードが外れないようにしっかりと結んだ 。
「後はリードをゆっくり引っ張れば良い!」手塚の言葉に少年は頷いた。
『このまま犬を離して、あの少年は河原まで犬を引っ張れるだろうか…』
激流ではないものの、決して緩やかとも言えない流れに、このまま犬を離すのが躊躇われた手塚は暴れる犬を抱えたままなんとか河原に近づこうと泳いだ。
