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【黒子のバスケ】短編集

第13章 Re:Start【緑間真太郎】


「真太郎、お誕生日おめでとう!」

記憶の中ではとびっきりの笑顔を見せてくれるつばき。

医大で知り合って、研究室で真菌の培養を一緒にやったことが縁で、それまで恋愛とは無縁だった俺に彼女ができた。

一緒に講義を受け、一緒に論文を読み、一緒に勉強し、一緒に国試に受かり、一緒に大学を卒業した。

俺は実家の病院、つばきは都内の国立病院に研修医として入職した。

一緒に大学にいる間、俺たちは一度もケンカをしなかった。
互いに目指す職業が同じで、カリキュラムも同じ。
だから生活リズムがほぼ同じで、一緒にいる時間を確保することは容易かった。

強いて言えば、俺は実家暮らしだったから外泊をし過ぎるわけにもいかず、親には友人の家だと度々嘘をついては二人きりの時間を作ることがあった。

だが、研修医になって病院が別になると、顔を見れない日が続くだけでなく、研修の疲れ、知識をつけるための勉強、技術を身に着けるための実習の反復練習などで、連絡を取る暇すら互いに取れなくなっていった。

医大で知り合ったカップルが一番別れる確率が高いのは初期研修に入った時だというのは有名な話だが、俺達も例にもれずそうなってしまう可能性は十分あった。

けれど、週に1度か2度なんとかやり取りをしたメッセージには、つばきが俺を大切に思ってくれている気持ちがいつも書かれていた。

俺自身も、会える頻度や連絡の頻度にかかわらずつばきの事はだれよりも大切で、別れようと考えることは一瞬たりともなかった。


初期研修を終え、俺は外科医、つばきは脳外科を選択した。

時間に余裕がないのは相変わらずだったが、互いの病院の中間地点で同棲をはじめたことで一緒にいる時間は少し確保できるようになっていた。

家の中が信じられないくらい散らかったり、休みが重なるから出かけようといっていたのに起きたら夕方ですらなかったり
そんなことはしょっちゅうだったけど、俺は幸せだった。



だから俺は、つばきとあんな形で別れることになるとは思ってもいなかった。別れたいなんて、一瞬だって思ったことはなかった。

けれど、つばきは婚約指輪をマンションに残して姿を消した。


ごめんね。大切にしてくれてありがとう

未だに処分できないこの書置きを、手放せるときがくるのだろうか…
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