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【黒子のバスケ】短編集

第12章 分からない男【赤司征十郎】


大好きなワンピースを着て公園に行ったのに水たまりで飛び跳ねて泥だらけにしたと笑った黒子

フライトに行ってほしくないからと靴を隠されたと笑った黄瀬

新築の家の壁に油性ペンでいたずら書きをされて参ったと笑った緑間

引出しを勝手に開けて、たっぷり口の周りに砂糖をつけてなめていたと笑った紫原

バスケの試合に負けたと泣く子供にずっと練習に付き合わされてると笑った青峰

犬が怖い事をダサいと言われていると笑った火神




彼らはいつだって子供の事を話すとき笑っているが、征十郎は笑った父を知らない







「違うんだ。勘違いさせてすまない」

「じゃあ…嬉しいと思ってる?」

「思っている。子供ができたことも、君がそれを喜んでくれたこともすごくうれしい。ただ、分からないんだ」

征十郎はこれまで妻にも自分が幼いころの話をする事はなかった。
幼少期の環境を不幸だと思ったことはなかった。

父はそばにいなくても執事も運転手もいた。
学校の勉強は、授業を聞く必要などないほど優秀な家庭教師がいた。
スポーツ、音楽、美術すべて学ばせてもらった

中学になってからは、帝王学、経営学、企業理論必要なことはすべて教えられた。

望まなくともすべてが手に入った。

人を支配し従えることで、自分はすべてを手にしてきた
勝つこと以外は無価値だと信じていた



「俺には正しい子育ても父親も、どんな親になればいいのかも分からないんだ」

「私にもわからない。いい母親も、正しい母親も。でも相手が自分の子でもそうでなくても、やってもらって嬉しかったことをする。やられて嫌だったことをしない。これでいいんじゃないかな?」


そうなのだろうか

子供にいい人生を歩んでほしい
そのためにはしっかりした教育と正しい躾が必要ではないか

征十郎は分からなかった。

生育環境が望んだものだったのかそうでなかったのか考えたこともなかった。

産まれた時から赤司家の息子と言われ、できて当たり前、勝って当たり前だった

そして、その結果今の生活を手に入れたともいえる。
だが、幼少期は苦しかった。


答えはすぐには出ない。

だが一つだけ、これだけはきちんと伝えなければならなかった。


「子供は本当に嬉しい。病院は一緒に行きたい」

「うん。一緒に行こう」



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