第1章 EMERGENCY 【青峰大輝】
side つばき
次の犯行が起きる前にとにかく分析結果を早く報告したかったから、質量分析計に「頑張ってくれたのにお手入れ後にしてごめんね」って謝って掃除と手入れを済ませて分析室を出た。
室長が戻ってれば挨拶しようと思ったけど、オフィスには誰もいなくてあたしも先に上がらせてもらう。
今日はバレンタインだけど昨日から缶詰だったから今日チョコ買って帰ろ。
チームのみんなと…室長。
実はあたしは室長が好き。
かっこよくて手脚長くてって見た目と、ちょっと怖そうに見えてすっごく優しいとこがすごく好き。飲み会でその時付き合ってた人の愚痴を言ってたら「そんなん別れちまえばいいだろ」って言ってくれて、別れるのを引き止められた時はどう言えば効果的か教えてくれて、何度も別れ話に失敗してた不毛な恋愛を終わらせることができた
それからあたしはずっと室長が好きで1年以上片思い
バレンタインだからって告白なんてする勇気なんてない。だって室長にはすっごく可愛い彼女がいるんだもん。でも室長のチョコは少しだけ奮発しよ。
チームのみんなにだって完全に気づかれてるし
室長だって気づいてるかもしれないけど、気づかない振りしてくれてるんだと思う
どこのチョコにしよう
イタリア?イギリス?それとも王道のベルギー?
新進気鋭のショコラティエのスミレってラインもすっごく興味ある
これから向かうデパートで何を買おうか楽しみにしながらロビーに降りると、受付が不在で荷物を置けなくて困ってる配達員が目に入って、あたしと目が合った
「すみませーん。受け取りお願いできますかー?」
「いいですよ」
別に受け取るくらいなんてことないしちゃんとその課に届ければ問題ない
サインをして箱を受け取ると、冬で乾燥してるはずなのに少し湿気を帯びた平らなダンボールを手の上に乗せるように置かれた
「…ハッピーバレンタイン…」
ゾクリと背筋に悪寒の走る声でそう言われてダンボールの上の蓋をその人が外した。
穴がいくつか空いてるところにビー玉が転がっていて赤く光る数字
それが爆弾だと瞬時に理解した
「君に恨みはない。でも警察組織全体が憎いんだ」
「これは平行圧力センサー式。君が穴に玉を落としてもどこかに置いても時間内に解除できなくても爆発する。せいぜい残りの人生楽しんで」
そう笑って出ていった