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【黒子のバスケ】短編集

第13章 Re:Start【緑間真太郎】


「つばき‼」

負傷者の搬送と軽傷者の手当全てが終わり、自社ビルに戻ろうとするあたしの背中に、懐かしいけど、はっきりと覚えている、誰よりも大切に思っている人の声が聞こえた。

今振り返ったら、7年間封じ込めていた気持があふれ出してしまうことは分かっていた。

無視をして、聞こえないふりをして1歩踏み出せばいいだけ。


これからも何も変わらない

あたしは審査課で取引先の審査をして稟議を上げる。
恋人はいない。
仕事を終えたらまっすぐに家に帰って、お風呂に入って、論文の続きを眠くなるまで読む。


昨日までの日常は、この脚を一歩踏み出すだけで戻ってくる。




そのはずだったのに……



彼の声にあたしは脚を止めてしまった。


足が地面に張り付いたかのように踏み出せないまま、次の瞬間には、何度も何度も思い出しては眠れない程寂しくなった温かさがあたしを包み込んだ。



「すまなかった……」

なぜ真太郎が謝るのか、謝るべきは勝手に消えた私なのに。

「勝手だと思われることは分かってる。つばきが今幸せなら、邪魔をすべきでないことも分かっている。だが、俺はつばきを諦められない。」

勝手なのは私
何も言わず。たった一言の手紙とも言えないようなメモだけを置いて真太郎からも医師であることからも逃げた。

真太郎に向き合うことが怖くて逃げた。
真太郎が勝手だったから別れを選んだんじゃない


それなのに……

「愛してる。俺は今もつばきを愛してる」



あの頃と変わらない、誠実でまっすぐで嘘もごまかしもない、あたしの大好きだった声
未だに大好きな声




「……勝手なのは……あたし……」


すごく照れ屋で、付き合っていた時も人前でくっつくことを一切しなかった人が、人目もはばからずあたしを強く抱きしめて全く離そうとしない。

やっと返したあたしの言葉にその腕の力はさらに強くなった。



「君を愛してる。」


俺は口下手で女性の事を理解するのも苦手だ。
だが、これから伝える言葉に嘘はない

そう前置きして、初めて同じ言葉を言ってくれた日の事が鮮明に蘇って、あたしは腕を振りほどくことはおろか、真太郎と自分の間に隙間を作る事すらできなくなった。



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