第13章 Re:Start【緑間真太郎】
「戻ったら…係長いないんですよね……」
「うん。でもぽん…あ、じゃない。本田君がいるから」
「係長今ポンって言いました?」
「言ってない‼言ってない‼」
うちはハラスメント行為は一切禁止。
そういったあだ名をつけることは部長が絶対に許さない。
だけど、当の本田君と言えば…
「僕、小学校の時からみんなにポン太って呼ばれてて!ポン太って呼んでください!」とかにっこにこしながら挨拶で言うから最初はポン太くんってみんな呼んでた。
なんでポン太何だろうって思って聞いたら、理由を言われて、さすがにそれでは呼べないよと話すと本当にがっかりされてこちらが困惑した。
こんなに愉快で素敵な仲間のいる職場から去るのは本当はとてもさみしい。
だけど、私がやるべき仕事に気づいてしまったから。
そしてその背中を押してくれたのは部長だった
「医師である君が6年前入職したとき、なぜだろうと思っていた。個人的なことを聞くのはコンプライアンス違反だから聞くに聞けなかったけれど……戻りたいと思ったんじゃないか?」
戻りたいかと聞かれれば、分からなかった。
このまま今の仕事を続けていくことだって、私は何の不満もない。
医師である以上、命を救うことに疑問があってはいけない。
「……私は、自分が執刀した患者に刺されました。当時の上司に、助けたことを後悔しているかと聞かれ、私は何も答えられなかった。医師免許とは命を選別する許可を得るものではなく、全ての命を救うためのものです。」
「戻りたい気持ちが少しもないならば、きっと君はあの救命活動に参加してないさ。もう一度、私が聞くよ。自分を刺した人間を救ったことを後悔してるか?」
「……分かりません
ですが、命を救ったことは正しかったと……今は思っています」
「大河内。君は優秀だ。わが社としても手放したくなどない。だが、我々よりもっと君を必要としてる人がいることだけは絶対に忘れちゃいけない。私たちはロボットじゃない。迷ったり間違えたりする。けれど、人間だからこそ人を助けたい、救いたいという気持ちがあるのは紛れもない事実だ。」
最初の処置の後、一緒に処置をした看護師さんに「医師なら背中に書かせて下さい」と言われた時、私は一瞬も迷わずそれを承諾した。
人を助けたいと心の底から思ったから。
