第13章 Re:Start【緑間真太郎】
赤タグの処置をしながら、搬送の目処が立たない黄タグの容態をチェックしてくれてる看護師に目をやると壁にもたれるように座る1人の患者のところで大きく声をかけて聴診器を当て始めた。
容態の悪化だろう。
「ここしっかり抑えて、すぐ戻ります。」
処置に付いてくれていた看護師に患者を任せて、黄タグエリアに足を向けると、パッと顔と手を上げて、医師を呼ぼうとした看護師と目が合った。
「呼吸が浅く、心拍低下してます!下測れません」
「いつから?」
「恐らく多分20分は……」
「分かった。エコーちょうだい」
患者を寝かせて、受け取ったエコーには【海浜大学医学部附属病院】のシールが貼られている。
意識の朦朧とする患者の腹部にエコーを当てると、腹腔内の大部分が黒い色に映った。
腹腔内での大量出血。
ここで開腹して止血できなければ彼は助からない。
だけど、病院まで持つか。
位置的に考えられるのは肝損傷、肝門脈損傷のいずれか。
「開腹して止血します。開腹セットとペアン3つ下さい。門脈損傷ならペアンで一時止血して、おなか開けたままインサイズドレープで搬送に回します。搬送は20分以内。」
肝損傷ならこの方法は使えないけれど、この出血量なら十中八九動脈の損傷。
それならば止血して循環維持できれば病院で手当を受けられる。
用意された開腹セットで開腹して、腹腔内内に溢れる血液を除去しながら門脈上部をクランプすると出血は明らかに減ったけれど、ジワジワとゆっくりした出血が止まらない。
脾臓損傷も負っている。
2本目のペアンで門脈からの出血をコントロールして、脾臓の損傷部位を確認すると僅かに裂けている箇所が目視で確認できた。
「縫合します。2-0ポリ。搬送先見つかった?」
「確保できました!」
都では首都直下型地震を想定し、近隣の都道府県と災害時の協定を結んだ。
搬送に時間がかけられない重傷者を都内へ、それ以外を近隣県に回すことで搬送時の重傷者受け入れ先の確保を最優先とした搬送体制が組まれている。
「肝門脈の損傷と脾臓の損傷。腹腔内にペアン2本。閉腹してないから搬送慎重に」
「了解しました」
患者を引き渡して緑タグのエリアを見ると、カフェで見た2人がいる。
医師の指示に従って声をかけ、消毒を手伝い、顔を真っ黒にして自分にできる精一杯のことをしている。
