第1章 夢は夢のまま
しばらくトントンとリズムをつけて子供をあやす様に背中を叩いていると、彼女から静かな寝息が聞こえてきた。
ホッとした気持ちもあるのだが、最近の彼女をみていると嫌な夢を見ていることが多いようだ。
彼女自身気づいていないのだろう。
涙を流しながらあの人の名前を叫んでいる事も、その声は、とても切なく悲しいという事も知らない。
ルナのその声に呼応したのか、あふれ出す不穏なオーラ。
本来の彼女なら聡明で光輝く色だが、そのオーラは真逆とも言える色。
そう例えるなら漆黒の闇の中から、零れる赤月の光に似ているようなアンバランス色だ。
次第に彼女の額から汗が流れだし、涙が止め処なく流れていく。
ふと伸ばされた腕は、誰かを求め探しているようだった。
尋常ではない寝姿に起こそうとルナに触れようとするが、彼女の念のオーラに邪魔をされ触れられずにいる。
致し方がなく俺のオーラを膨れ上がらせると、その不穏なオーラは消え彼女が眼を覚ました。
起きた彼女を見れば青褪めた顔、嫌な夢をみているのは明らかだ。
いつもように聞きはするが、何もなかったかの様に振る舞おうとする。
「大丈夫だよ…」
笑顔を無理に見せようとするから抱き締められずにはいられない。
華奢な体は、一層小さく見える。
抱きしめればすっぽりと収まってしまうくらいに。
普段から彼女は、弱音なんて吐くことがない。
いや、俺には吐いたことがないかのか…。
あいつには、弱音を吐くのか?
眼に浮かんだのは、幼なじみの暗殺稼業のあいつ。
それともメンバー内のあの変態奇術師か。
いずれにしてもこの子は、只通っただけでどんな男も惹きつける。
振り返えらない奴などいない。
俺も同類…。
考えても答えなど出ることなどない。
一つ一つ積み替えて交わらせて、ハズルのように解くのも良い。
時には、推理小説のようにストーリー紐解いていくのも悪くはないのかもな。