第1章 夢は夢のまま
「…………ルナ……………ルナ!!」
自分の名前を呼ばれ、薄っすらと目を開けると、まだ現実と夢の中を彷徨っているような感じだ。
体が重く思うように動けない上にうまく呼吸もできないせいか、額から汗がダラダラと落ちていく。
微かにだが体は震えていた。
頬から涙が流れ落ちてくるのを感じると夢から覚めた気分になる。
そして、しばらくして呼吸が整い起き上がろうとすると、そっと手を差し伸べてくれた。
「大丈夫か?大分魘されていたようだが?」
心配そうに顔を覗きこみ、背中をさすってくれる。
「大丈夫よ…」
必死に返せた言葉。
不安なのは悟られたくない。
「ルナは、嘘つきだな…。ほら、まだこんなに震えているのに」
そっと頬から流れる涙をソッと拭い、額にキスをしてくれる。
彼の眼に映る漆黒の瞳から、何もかも見透かされてしまうようで怖くなりそうだ。
目をそらしながらも彼の手を振りほどこうとすると、それをさせまいとグッと胸に引き寄せられた。
「離して…」
引き離そうとすると、一層力が入ってくる。
「ダメだルナ…今にも消えていなくなりそうだな」
肩越しで話す声は、いつもより低く色っぽい声にゾクッとする。
「痛いよ……大丈夫だから…消えたりなんてしないよ」
少し作り笑いを浮かべ安心させようとするけれど、それも無駄なことだって解っている…。
こんなにも不安そうにしている彼の顔を見ていたら、継ぎ足しの言葉を言うより少しでも笑顔を見せた方が、安心してくれるかなって…。
しなやかな指先を絡めるように繋ぐと、細い指先にキスをしそのまま柔らかな布団に押し戻された。
彼は、子供をあやす様に優しく抱きしめて、背中をポンポンと叩いてくれる。
その優しさが嬉しかった。
しばらく彼の胸の心音に包まれながら目を閉じると、次第に瞼が落ちてまた夢の中に入っていった。
今度は、良い夢がいいな。
彼の優しい腕の中のような…。