第1章 夢は夢のまま
「そうだな…俺は蜘蛛だ。
どんなに取り繕ってもルナには、俺が蜘蛛の団長でしかないのかもな…」
静かに告げられたクロロの言葉は、冷たい。
それでも、頬に触れられた手は温かい…。
「それでもルナが欲しい。
蜘蛛としての俺を受け入れて欲しいとは言わない。
ただ…俺の傍にいてよ…」
微笑みながら、懇願するように告げられる言葉。
優しく包み込む体温に体を預けてしまう。
「クロロ・・・」
「うん?ルナ何?」
そのままぎゅーと抱きしめられ、頭を撫でながら甘い声で聞いてくる。
いつものクロロだ…どんな時でも優しく私を甘えさせてくれる。
その人懐っこい彼の笑顔にペースを持っていかれるのだ。
多重人格のように、蜘蛛の頭であるクロロと私と会う時での顔は違うのだろうか?。
そう…あの話をしている時・・・
『ルナ、蜘蛛の糸の事知っているか?
蜘蛛の糸って、簡単に切る事は出来ないんだ。
だから、俺が飽きて手放すか…それとも…殺すか、まぁ、後者は無いけどな』と・・・まるで殺しを行う一瞬の殺気が零れていようだった。
この時は、彼の本質をみてしまったのではないかと怖かった。
「クロロ・・・、私は…その・・・」
人差し指を唇に当てると、「まだ、返事はいい」と伝えてくる。
また、頭を撫でてくれて一層強く抱きしめてくれる。
見つめ合えば、少し触れるキス…その後深いキスが始まる。
両方の立場を考えれば、矛盾と覚悟がないままこの関係を続けている。
それでも、私は、ハンター協会会長の孫娘である自覚を忘れてはいけない。
お尋ね者の凶悪な幻影旅団の団長のこうして、一緒にいること自体ありえない。
寧ろ協会側にいるのなら、尚更今すぐにでも捕まえて突き出さなければいけないというのに。
その点は、いつも躊躇する…。
それでも、クロロが、ここにいる理由が知りたい!
彼が、蜘蛛の団長として動くなら彼らの目的を聞かなければいけない。
場合によっては、この優しい温もりを壊さないといけないのだろう。
彼をどう見ているのかわからないまま、少しばかりの覚悟を決めて彼に問いかける。
彼らを止めるために動きだす。