第1章 夢は夢のまま
悲しそうに見つめてくる彼。
こんな話をするつもりじゃなかった。
彼の言う言葉は、いつもなら信じられたと思う。
それなのに…比喩であったにせよ、彼自身を蜘蛛と私を蝶としてみている。
捉え方一つで物事の考えが、変わってしまう。
それは…彼が、嘘をついたからだ。
欲しくて堪らなかったものを、命を殺してでも奪い留めた。
世間からみれば非道で残忍な行いだが、彼らからしてみれば、それは必然であり意味のあること。
じゃ、欲しくて捕らえた私を飽きれば手放す?それとも殺す?…。
チガウ…アナタハ、ワタシヲ コロスデショウ?
ハネヲ クイチギリ、スベテハ ナニモナカッタヨウニ。
心の奥に聞こえる音が、痛い。
「ルナ聞いて欲しい」
そっと抱きしめられた彼の腕の中。
温かく心地よいのに、なぜか胸がざわつく。
「俺達の事を調べたのか?」
「最近聞いたの…あの眼は、多額のお金で闇ルートに転売されていたから。
私は、人体取集に興味はないけど、あの眼は違うもの。
とても綺麗な緋の眼…それに私の眼と同異種だからよ」
見据えた先には、彼の驚きと困惑の眼だ。
「同異種とはどういう意味だ!!緋の眼とどうゆう関係がある?」
「詳しい事は言えない…それに、それを伝えて何になるの?」
それを伝えても、もうその命はない。
「そうだったな、何も変わらないな。
欲しかったんだ…紅く染まる緋の眼が綺麗で…欲しかった。
当時は、生きたままを愛でようとする気持ちすらなかった。
ただその眼だけが、欲しいと思えた。
だから奪った。
でも、ルナは違う。
殺したりなんてしない。
けど俺達の…蜘蛛の邪魔をすれば考えは変わる」
「それって…殺したく…なるってこと?」
ニコッと笑ってみせる彼は、優しく抱きしめてくれる。
「俺は、殺したくはないしずっと傍にいたいから」
泣いている私の涙を拭いながら、頭を優しく撫でて額や頬に口付ける。
「ごめん、ルナ。泣かしたくはなかったのに。
ごめんな…愛しているんだ。本当に…。
誰よりも愛しているから…、殺したくはない」
「クロロ…私…怖かったの。クロロがいつもの優しいクロロじゃなくて、旅団の団長として接しているようで、怖かった…」
涙を堪える事ができず、震える体を彼に預けた。