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ビターチョコレート

第1章 貴女の隣


最後の何言かは涙声になっていた。
それを誤魔化すように彼女は一気にお酒を煽り、お代わりを頼んだ。
僕はそんな彼女が愛しかった。
強がっていても普通の女の子となんら変わりはない。
それと同時に悔しかった。
彼女をそうさせる男が、僕じゃないのが。
「言いたいことは言っておきなさい。あとで後悔しても遅いんだから。」
それなら今この場で言ってしまおうか。
貴女が好きだと。
一瞬の惑いはすぐに消えた。
彼女が寂しそうな目で空のグラスを見つめているから。
泣きそうに潤んだ瞳で、僕の知らない彼の事を思っているから。
「狡い人だ。」
代わりにそう言った。
彼女が僕の方を一瞬捉えた。
そして何もかも見透かしたような顔をする。
「お前にはまだ早い」と言うように挑発的に笑うと、またチョコレートをひとつ口に放り込んだ。
口の中で溶かすように時間をかけてチョコレートを味わう。
それに倣って僕もチョコレートを口に含んだ。
甘いように見えたチョコレートは少し苦い味がした。
彼に恋をしたけど何も言えなかった、貴女の失恋の味。
そんな貴女に恋をしたけど叶わなかった、僕の失恋の味。
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