第6章 理由その6
「…自首しよう、。幸い君はまだそこまで凶悪な事件を起こしてはいない。まだ罪を償える場所にいる」
携帯で救急車を呼んだ後、オールマイトが私の足を応急処置してくれた。折れている感じはしたけど麻痺してるのかあまり痛みを感じず、呆けてオールマイトを見つめた。
目を伏せたまま呟いたマイトさんの言葉が頭の中に落ちる。先程とは違い、それは素直に私の胸に届いた。
――私は彼に捕まえて欲しかった。
こうして話せて戦えて捕まって、願いはもう叶ったのだから。
付き添うと言うマイトさんを丁重に断り、到着した救急車に乗り込んだ。やはり足の骨は折れていたが、歩こうとする私を救急隊員が慌てて止める騒ぎがあった。
マイトさんが救急隊員に何かを話している。何を話しているかは分からなかったが、このまま病院に搬送された後、私は逮捕されるのだろう。
「…君が罪を償った後、迎えに行くよ」
救急車の扉が閉められる前にマイトさんの声が聞こえた。待って、と声を掛ける前に扉は閉まる。
「マイトさん…!」
遠ざかる彼の姿、それはとても痩せていてとてもヒーローなんて思えないシルエット。けれども私にはもうオールマイトにしか見えない。
(…そう言えばオールマイトがマイトさんになる理由を聞くの忘れた)
まあいいか。オールマイトはオールマイト。マイトさんはマイトさんだ。
どっちも私の愛した人間には変わらない。
これでオールマイトを追いかける事も、追いかけられる事ももう無い。私のヴィランである理由は終わったのだ。
ヴィランとの別離に無性に悲しくて泣き叫びたかったけど、しない。そんな格好悪い事は絶対にしない、オールマイトに対峙した私のプライドがそれを許さない。
今更ながら足が痛み出した。この痛みは私がオールマイトと本気で戦った証なんだ。
何ヶ月か何年かは分からないが私が償いを終えた後、オールマイトはどうしているだろう。迎えに来るという約束は守られるのだろうか。
(…オールマイトは約束を守る)
きっとそう、それが私が子供の頃から憧れてきたスーパーヒーロー・オールマイトだ!
(私はオールマイトに負けたけど、オールマイトに受け入れて貰えた)
オールマイトとマイトさん。
私はヴィランになった理由と引き換えに、二人もの愛しい人を手に入れた。