第6章 理由その6
「あー…泣かないでくれ」
「……」
マイトさんを見上げ知らず涙が零れていた、泣かないって決めたのに。
ばたばたとハンカチを探しているようだが見つからず、探し物を諦めたマイトさんがその手で私の涙を拭う。
大きくてがさついてて、暖かい手が私の涙を余計に誘った。困ったな、とマイトさんは笑う。
「私は君の性根がヴィランな所も、遠慮なく私の弱点を狙う所も、そうやって強がって泣き虫な所も、わりと好きだよ」
「…性根って」
涙声で口を曲げるとマイトさんはHAHAHA! と笑った。それはとてもオールマイトのようで、今更ながら目の前の彼の正体を自覚した。
「言い方が悪かったかな? …人は誰しもヴィランの要素を持っているものだ。勿論私もね」
優しい目をしたマイトさんがそう言う。私は黙って聞いた。
「君を見ていると何だか安心する。今までヒーローとして押し込んできた自分の悪い部分も嫌いじゃないかもって。分かっていたけどね、ヒーローとヴィランは紙一重だ」
私達は実はそんなに変わらないんだ、とマイトさんは続けた。
「隠し事が多かったのはお互い様。私はヒーローだし、君はヴィラン。だけどヴィランな君も嫌いじゃないよ?」
「マイトさん」
「私は君の事をもっと知りたい」
「…それは」
「ヒーローとヴィランが恋仲になるなんて、ヒーローコミックみたいでいいんじゃないかな?」
悪戯っぽくはにかむマイトさんに思わず笑ってしまう。
「笑ったね」
私の頬をむにっと摘まんで、それからそっと口付けた。
「君の口付けの味以外も教えてくれ、」
「オールマイト…!」
「そうだ、私はオールマイトだ。君のものになろう、。…いや」
とっくになってたな! と痩せたヒーローは楽しそうに笑った。