第1章 理由その1
そんな瞬きの一瞬だった。
「!?」
私が居るのは5階だ。しかし気付くと目の前にオールマイトが居た。
(ここまで飛び上がった!? さすがオールマイト!)
喜び興奮の束の間、目の前のオールマイトが私に迫る。
(やられる!!)
そう思った咄嗟の間に、思わず叫んだ。
「このビルにはまだ人が居るの!」
私の言った事を一瞬で理解したのか、オールマイトのSMASHが途中で止まる。
「それは人質、という事でいいのかな?」
「…このビルは私が壊れ易くした。私の個性は勿論、オールマイトの力が少しでも加わったらどうなるか分かる?」
言外に「衝撃はご法度」と言ったつもりだがオールマイトには通じたらしい。さすが。
「umm…それは困るね!」
人質の救出方法を考えているのかオールマイトが首を捻る。
「…キミはどうしたいのかな?」
ふとオールマイトが私を見た。初めて目が合って私の胸は高鳴った。
「見たところキミは若いお嬢さんだ。そんなお嬢さんが一体何故こんな事を?」
合点がいかないという顔でオールマイトが私を見る。
「占拠するからには理由があるんだろ? キミの要求は何? お金? それとも怨恨?」
人質がいるかもと私を説得する方向に出たのか、オールマイトの口調が少し優しい。
「」
「ンン?」
お嬢さん、と呼ばれたくなかった。
「私の名前は。私の名を覚えて、オールマイト」
「!?」
唐突な私の言葉にオールマイトが驚いて目を丸くしていた。
ああ、胸が熱い。オールマイトが私にこんな顔をしてくれている。
「…か。いいよ、覚えたよ」
驚きつつもオールマイトが頷いた。そして続けた。
「、キミの要求は?」
「!!!」
オールマイトが私の名を呼んだ!! あの声であの口から!!
思わず微笑んでしまった私にオールマイトはまた驚いたようだ。
「…?」
三回目で私は満たされた。
四回目はまた今度でいいか。出来るだけ不敵に微笑みオールマイトに向かって言う。
「それだけ。今日はご挨拶出来たからもういいかな」
「何?」
理解できないといった顔のオールマイトにもう一度微笑み、たぁん! と足を鳴らす。
「!!」
ぐらり、とビルが揺れる。