第1章 理由その1
「…shit! 止めたまえ!」
また私にSMASHしようとして慌てて手を引っ込める。
「待て! 人質を解放しなさい!」
これ以上自分が手を出せば崩壊が早まると思ったのだろう。辺りを見回しながらオールマイトが叫んだ。
ああ、オールマイトって優しい! そんな優しい彼にはちゃんと教えてあげなくては。
「そんなの最初から居ないよ」
「!」
「オールマイトを騙す為の嘘。ひっかかったね」
くつくつと笑う。楽しそうな私に悔しそうな顔をするオールマイト。
これはいい、こんな顔が見れるなんて!
でもその悔しそうな顔は残念ながら一瞬で終わり、またオールマイトはいつものように微笑む。
「…それは良かった。かわいそうな人質はいなかったんだね」
「まあね」
いつものオールマイトの表情に戻ってしまってちょっとつまらないなと思う。
でも、またさせたい。私にしかして欲しくない。
「さよならオールマイト。また会いたいな」
投げキッスをして跳躍した。その衝撃でビルが崩れる。同時に何箇所かに仕掛けておいた煙幕が上がり廃ビルの窓という窓から煙が上がった。
廃ビルから逃げ出す私に向かってオールマイトが手を伸ばすが、それを見下ろしてから言った。
「ほらオールマイト、もうビルが崩れるから救助に行かないと大変よ?」
避難はしただろうが占拠からいくらも時間が経っていないし、まだ人がいるかもしれない。
一瞬躊躇したオールマイトだったけど、警察を信頼する事にしたのかまた私を見上げた。
「待て!」
ああ、四回目! だけれどもう遅い。その一瞬の躊躇いを私は見逃さなかった。叫ぶオールマイトが私に向かって伸ばした手は土煙に隠れてしまった。
オールマイトの姿を隠してしまったのも少しだけ残念だ。
「いつか私を捕まえてね、オールマイト」
小さく呟いた声はオールマイトに届いただろうか。
ビルを飛び降り、すぐに隣のビルに移る。それを繰り返したらもう廃ビルは見えなかった。
「オールマイト…」
愛しい愛しいオールマイト。
「またすぐに会えるから」
だから今度は私を追いかけてね。
そのために私はこうしてヴィランという称号を手に入れたのだから。
それが私のヴィランになった理由。