第6章 理由その6
――彼は最初から戦う気だったんだ。
とんとんと爪先で地面を蹴ると桜色に塗った爪が汚れた。砂利だから強く踏ん張る事は難しいかと懸念したが、裸足になった今はむしろグリップが効きそうだ。
構える様子も無いオールマイト、でもこれが彼の戦う姿勢なのは分かっている。巨躯に似合わず素早いオールマイトはモーションも少ない。
オールマイトは短時間でヴィラン逮捕の傾向があるのはきっとマイトさんの姿をしている事が関係あるのだろう。どうして痩せた姿にもなるのか気になったが、それは彼を負かしてから聞こうか。
「あなたに勝つわ、オールマイト」
ゆっくりと右足を後ろに下げた。
「そしてあなたを手に入れるの」
そう呟いたと同時に、私は裸足の脚を蹴り上げた。
「!」
一瞬躊躇したオールマイトだけれども流石にプロヒーローだ。私が蹴り上げた地面から放たれた砂粒と砂利を空中で払う。
だがオールマイトの目を狙った砂利を払ったせいで視界は一瞬遮られた。その隙に砂利と同じ速度で疾走し、死角から左足を軸に右回し蹴りを繰り出した。
「ッッ!」
渾身の蹴りはオールマイトの左脇腹に衝撃を与えた。びりと音を立ててスカートが裂ける、それ程の勢い。
本当はもう少し上を狙ったけど身長差のせいとタイトなスカートのせいでこれ以上は足が上がらなかった。
「…やるね」
左腹を押さえながらオールマイトは苦しそうに呻く。彼の呟いた言葉に私は薄く微笑んだ。
マイトさんと体を重ねた際に左胸から腹に続く大きな傷跡は見ていた。悪戯心で強く口付けた時に「ちょっと痛いよ!?」と苦笑された。
さして新しくも古くも無い傷にも見えたのでその時は何も言わなかったが、マイトさんの正体を知った時に真っ先に浮かんだ。これはもしかしてオールマイトの弱点になるかもしれない。
案の定強い蹴りでオールマイトは苦しそうにしている。当たった予想に満足した私は続けて膝を曲げたオールマイトの脛を足払いした。
(これで体勢が崩れる!)
廃ビルさえ倒壊させる脚力強化の私の個性。このままオールマイトを地面に這わせたら勝てるかも・・・いや勝てる!
再度蹴りを繰り出す、今度は右足軸の左回し蹴りだ。右足の勢いも消えていない左蹴りは、腹を蹴った時よりも強く早くオールマイトの脛を狙う。