第6章 理由その6
だから、私はそのハイヒールを脱いだ。それを見てオールマイトが気色ばむ。私の思いに気付いたのだろうか。だとしたらほんの少し嬉しいのだけれど。
「改めてこんにちは、オールマイト」
靴を両手で持ちオールマイトに向かって掲げてから、そのヒールをばきりと折った。
「私の名前は。ヴィランとして何度か会ったわね。まさかこんな形で話す事になるなんて思わなかったわ」
「…!!」
ばらばらになった靴をぽいと投げ捨て、私は彼に向き合う。裸足の足には砂粒と砂利があたるが全く気にならなかった。
「、何で」
君はヴィランなんかに! とオールマイトが叫んだ。海風が強くてオールマイトの前髪が倒れそうだなんて暢気に思いながら、私ももう巻き上がる髪を押さえなかった。
「全部あなたに会うためよ、オールマイト」
廃ビルと遊園地を占拠した事も、地面を隆起させたり風船爆弾を作った事も、仮面を被って名も無いチンピラを病院送りにした事も。
私がヴィランになった事も、全部。
あなたに会いたかった。
「そんな…そんな事の為に!?」
分からない! とオールマイトが叫ぶ。
「そうよ」
分かるはずも無い。だってそれが分かるのならきっとオールマイトは『こっち』側に居る筈だもの。
「たった『そんな事』の為なの」
目に掛かった髪の房を払うと、目を見開いたオールマイトがはっきりと見える。
「でも私にはとっても大事な理由」
「!」
私は精一杯ヴィランに見えるように、目線の先の大好きなオールマイトに向かって微笑んだ。
不意にこの場所の意味に気付いた。指定されたひと気の無い冬の海、この時間は満潮なのか崖下の海は深色をしており白い飛沫を上げ荒れていた。
周りには建物も無い、つまり何が起きても影響が少ない。