第4章 理由その4
「…、君は酔ってる」
「分かってるよ」
それでも腕に頬を寄せるのは止めなかった。
(そういえば私はマイトさんの事何も知らない)
年齢も職業も個性も。そう言えばフルネームすら知らなかった。
なのに。こんな気持ちになるなんて。
「私ね、マイトさんの事、知りたい」
驚き立ち止まって私を見下ろしたマイトさんに、私は精一杯背伸びして口付けた。
「…!」
触れるだけの口付けだったが、マイトさんは固まったままだ。
「…」
唇が離れてから、やっとマイトさんは私の名を呼ぶ。
「…抱き締めてくれたりしないの?」
少しだけふざけた調子でマイトさんに囁いた。それでマイトさんは我に返ったのか頭を振る。
「キミみたいな若いお嬢さんがこんなおじさんにいけないよ」
「お嬢さんって呼ばないでって言ったでしょ」
子供扱いして! と憮然とした。
「ああ、そうだったっけね」
マイトさんが笑う。いつもの笑顔にオールマイトへの想いとはまた違う胸の高鳴りを感じた。
「…マイトさん」
もう一度口付けた。
「」
マイトさんが私の名を呼ぶ。それが嬉しくて更にもう一度口付けた。
私を抱き締めようとしてくれているのか、背中にそっと手が宛てられた。じれったくなり私がマイトさんを強く抱き締めた。
「マイトさん。女からの誘いを断るなんて紳士じゃないからね?」
直球の誘い文句にマイトさんが苦笑する。
「ンン…、これ以上は紳士でなんていられないなあ」
こんなおじさんでいいの? と耳元で囁かれた。私は大きく頷く。
「…オールマイトの次に好きよ、マイトさん」
「HAHAHA! これは手厳しい!」
楽しそうに笑うマイトさんに一瞬既視感を感じたが、マイトさんからのキスにそれはすぐ埋もれた。
「…まあ…個性は譲渡したし、いっか」
小さく聞こえたマイトさんの独り言の意味を考える間もなく、私からも返す口付けに気持ちが溶けた。