第4章 理由その4
「…!」
私は目を見開いた。マイトさんの言葉が何故か空虚になった胸に響く。
勘だと言っている目の前の男性は普通の人で、オールマイトの知り合いでもなければヒーローでも無いけれど。
何でこの人の一言は、こんなにも説得力があるのだろうか。
「…そんなの宛てになる訳無いじゃない」
それでも虚勢を張って震える声で言い返した。
「宛てになんてならないさ。ただの勘だ。でもね」
結露したジョッキを置き、マイトさんは笑ったまま自分を指差す。
「私の勘は当たるんだよ」
「でも…」
「それに考えてもごらん。オールマイトがヒーローを辞めてしまう訳が無いじゃないか」
「!」
マイトさんの言葉が刺さった。としても、ヴィランのとしても。
そしてそれは、今の私が一番聞きたい言葉だった。
「そろそろ出ようか」
それきり黙ってしまった私を促しマイトさんが店の出口へ向かう。
「キミは飲みすぎだ。送るからもう帰ろう」
マイトさんは私に見えないように財布を出しながら、そこ座ってなさいと椅子を勧めた。
マイトさんは毎回「女性に出させる訳にはいかない」と、必ずお会計を済ませてくれる。
いいって言っているのに「年上に格好つけさせなさい」と絶対受け取ってくれない。
今日も私が飲みに誘ったのに。とぼんやり考えていると、マイトさんの痩せた大きい背中が目に飛び込んできた。
転職したと言っていたマイトさんは今日はスーツなんて着てるし。サイズ合ってないけど。
…初めて見たスーツ姿は、なんかいつもよりかっこよく見える。
「お待たせ」
支払いを済ませこちらに向かって来たマイトさんの腕を取り、そのまま手を握る。
「…?」
「いいじゃん。手くらい繋いでよ」
「ああ、いいけど」
驚いた様子のマイトさんに構わず、繋いだ手の指先を絡めた。
「!」
マイトさんの指先が強張るのが分かった。それにも構わず、マイトさんを引っ張るようにゆっくりと歩き出す。
私はマイトさんの腕に寄り添った。頬を摺り寄せた腕はやっぱり痩せていて骨っぽい。でも筋肉が付いたしっかりとした腕だった。