第4章 理由その4
「だって先生ってのは忙しいんじゃないの? ヒーローやってる暇なんかあるかな。メディアにもあんまり出なくなっちゃうだろうし…」
「それは…そうかもね」
「でしょ」
私はまたテーブルに突っ伏す。
「私はオールマイトにはヒーローをやっていて欲しいのに」
「……」
呟く私にマイトさんも無言になった。
私のオールマイトへのフォロワーっぷりはマイトさんは承知している。二人で会っていてもヒーロー専門ニュースサイトからのメルマガはひっきりなしに来るし、話題だってオールマイトの事が多い。
マイトさんもそれなりに詳しくて、私の知らないオールマイトの話(オールマイトが登場した初期の頃の話だ! ネットでしか知らないのですごく嬉しかった)もしてくれていた。
だから私がこうして落ち込んでいるのを黙っていてくれるのだろう。
――オールマイト。
私は彼に憧れて、彼に会いたくて、彼に追いかけて欲しくてヴィランになったのに。
私はオールマイトに名前を呼んで貰えて有頂天になった。
オールマイトが手を伸ばして私を捕まえそうになった時は心が躍った。
オールマイトにSMASHされそうになった時は、このまま死んでしまってもいいかと思うくらいに幸せだった。
オールマイトがヒーローじゃなくなるなら、私がヴィランである理由は無くなってしまう。
アルコールの回る頭の中で繰り返す。
オールマイトに会いたい。会って話して、私を捕まえて欲しい。
「…オールマイトはずるい。私から逃げたんだ」
「それはまた極論だね」
マイトさんが微笑んだ。何も知らない筈のマイトさんからすれば「私から逃げる」という発言は違和感があっただろう、しかしファンから逃げたと言う意味程度に取ったらしい。
「私も雄英に入る」
「はもう高校生じゃないだろ」
「いい。年齢偽って入学する」
「は比較的童顔だけど、それは流石に無理があるなあ」
酔っ払いの戯言にマイトさんが笑った。私はけっこう真剣だったんだけど。
「それにね」
マイトさんはビールをゆっくり飲み干しながら言葉を続けた。
「オールマイトはまだヒーローを辞めないと思うよ」
「…なんでそんな事が言えるの」
「勘」
にやりとマイトさんが口角を上げる。