第2章 理由その2
「…気分が良いからオールマイトに会いたいわ」
「何言ってんだこの女」
「昨日この街に居たのならまだいるかもしれないし。騒ぎを起こしてオールマイトにまた会うのもいいかも」
「はああ?」
混乱しつつも馬鹿にされているのは分かるようで、男達の声が怒気を含む。
「おいコラ! 何なんだよ!」
「……」
無言で鞄から新しい仮面を取り出す。これはヴィランになる為の、オールマイトに見つけて貰う為の合図。
「…何だこの女」
「ヤバくね?」
仮面姿の異様な風体の私に、男達が一歩下がった。
「いいわ、遊んであげる」
薄く微笑み、私は足をたん、と鳴らした。私の足の怪力の個性で地面が揺れる。
それでやっと察したのか、男達の顔が強張った。
「さあ来て、オールマイト」
路地裏に血の雨が降る。
「――さて、今日は準備をしなくてはな」
マイト…、オールマイトは息を吐き携帯を眺め時間を確認した。
独り言を呟き携帯を仕舞う。これからこの近くにある海浜公園に行かなくてはならない。
私は不法投棄のまかり通っている海浜公園に向かった。
昨日見出したワン・フォー・オールの後継者、緑谷出久。衰えつつある私の名を継ぐ者。
この場でこれから、後継者の育成を始めるのだ。
「高まるな」
見つけねばと思っていた後継者が突然現れた事はきっと運命なんだろう。
こんな私でも、明日からは教える側になる。
「気を引き締めなきゃね」
それがオールマイトとしての、やらねばならないことだから。
『オールマイトってすごくかっこいいじゃないですか!』
不意に今日会った少女の顔が浮かんだ。私の真実を知らないとはいえ、目の前であんなに手放しで褒められるとやはりくすぐったい。
「…か」
不思議な少女だと思った。懐かしい感じもするしどこか危うさも感じる。
そして彼女と同じ名のヴィランを名乗る少女の事も思い出した。
彼女も危険な匂いのする少女だった。
仕舞った携帯を再度取り出し、今日会った彼女の名を確認した。
「…また会えるだろうか」
『いつか私を捕まえてね、オールマイト』
『また会いましょうマイトさん』
去り際に再会するための言葉を呟いた、同じ名前の二人の少女に。