第10章 嘘と真実
「当時お前たちに何も言えなかったのは瞬木の要望、それに上からの口止めを食らったから…そして今話したことが俺が瞬木から聞いた全てだ」
被害現場でヒーローが集まり静まりかえっているという奇妙な場面。その中で真っ先に口を開いたのは緑谷だった
「それって凛ちゃんが自分の意思で、僕たちの前から消えたってことですか?」
「あぁ」
「自分がヒーローには向いてないって?僕たちの邪魔になるからって?……ずっと一人で抱え込んで?」
「おい緑谷…」
「轟さん!」
ズカズカと相澤に歩み寄る緑谷を轟が止めようとした。だがその轟の肩に八百万が手を置いた
「私も……私たちも緑谷さんと同じ気持ちですわ」
彼女らしく凛とした声で緑谷を見た。そして轟はその八百万の後ろにいるクラスメイトたちも彼女と同じく緑谷を黙って見ていたことに気がついた
「八百万、何か勘違いしてねぇか?…俺も一緒だ」
瞬木凛が居なくなって後悔していないクラスメイトはいない。その中でも轟は緑谷や爆豪と交流が深く、彼らの中で彼女がどれほど大きな存在だったのかを知っている
そんな彼女が消え緑谷が幼馴染として責任を感じていたこと
爆豪が彼女に似た黒髪を見つけると不意に目で追っていたこと、彼のゴシップ相手はいつも綺麗な黒髪の女だったこと
だからこそ、怒りに任せて相澤へと向かう緑谷を止めなければ行けないと思った
「緑谷!」
最悪個性を使ってでも元担任に詰め寄る緑谷を止める…!そう思い再び緑谷に轟が手を伸ばそうとした時だった
「ねえちょっと、キミたちだけで話進めないでくれない?」
相澤の首元めがけて伸ばされた緑谷の手に細く白い糸が絡みついた
「……止めないでよ」
「その顔、キミ本当にヒーロー?……残念だけどボクには止める権利がある」
瞬く間に糸で雁字搦めにされた緑谷はその場で尻餅をつきながらピーターを睨みつけた
「権利だって…?」
「うん、だってキミたち結局何も分かってないみたいだから……リンのためだ。特別に教えてあげる…カレン」
ピーターが手首にはまたブレスレットを軽く叩いた。するとそこから流れてきたのは
「……凛?」
今はこの場にいない、彼女の声だった