第10章 嘘と真実
「クラスの奴や緑谷……爆豪が悲しむぞ」
我ながら何て卑怯な言い方だ。色恋沙汰に疎い相澤でも彼女と爆豪には他人が触れられない何かがあると分かっていた。だからと言って口を出すわけでもなかったが…こんな所で言うとは思ってもみなかった
『優しい皆やいずくんならまだしも、爆豪君はないです』
完全に、きっばりと言い放つ凛に相澤は頭の中に爆豪の背中を思い浮かべた
『むしろ悲しむどころか、目障りな奴が消えて清々すると思います』
「…ハァ、どうしてそこまで言い切れる?」
『?だって、彼は誰よりも本気でヒーローを目指してます。真面目で努力家で、本当にすごい人なんです…だから、…』
心底、と言っていいほど嬉しそうに話す凛だったがその声は次第に萎んでいく
『だから、彼の迷惑になるくらいなら……消えた方がいい』
あぁ、何てことだ。爆豪お前、伝わってないどころかとんだ勘違いされているぞ。と今はこの場にはいない爆豪を哀れむ
「お前がそう言うなら俺はもう止めはしない。だが…」
本当にそれでいいんだな?
ここを去るということは日本でヒーローをすることを諦めるのと同じこと。彼女が初めから言っていた言葉通り目指すことを"辞める"ということ
彼女が血縁関係上の父の元で何をしようとしているのかは定かではない
ただ、賢い彼女の考えがあってこその決断だろう
『………はい』
その証拠にハッキリと決意したような返事
まだ16歳になったばかりの子供だ。なのに…
その表情は人の心を惹きつける何かがある
「……わかった。校長には俺から話しておく、あと…」
『クラスの皆には……特に心配するだろうしいずくんには、何も言わないで下さい』
最初で最後の、相澤先生へのお願いです。と口に指を当て微笑む凛に相澤はため息をつきながら片手を上げた
「了解した。だが瞬木、覚えておけ。何があってもお前はA組の一員だ、それはこれからも変わらない……いつでも頼りなさい」
教師らしくもっともらしいことを言い、上げた手を彼女の頭に乗せ撫でる。すると凛は少しポカンとした後、俯いた
『先生……ありがと』
その声は震えていたが、相澤は気づかないフリをして誤魔化すように彼女の頭を無造作に掻き回した