第1章 終わりと始まり
「婚約者をね、寝取られたの。
浮気されてた。
それが今日分かって、解消を私から言ったわ」
「は?なんだよ、それ。
で?金は取んの?
元婚約者と、浮気女から」
これまで穏やかだった南くんの表情が変わった。
眉間にシワを寄せて、口調も荒い。
「ううん、取らない。
揉めたくないの」
「見返してやりたいとは思わねーの?」
「彼を浮気に走らせた原因は私にあるって言われて...」
「そんなの、加害者の都合の良い言い訳じゃん。
そんな口車に乗ってどうすんの。
悪いのは浮気した奴らでしょ、先輩は悪くない」
「でも...」
「先輩、復讐しましょ、元婚約者に」
「南くん、復讐なんてそんな大袈裟な!」
「先輩は悔しくないんですか?
婚約者寝取られて、それでいて良い顔をされる。
先輩は遠慮して何も言わない、波風立てない、言われっぱなし。
こんな惨めなことありますか!?」
「...悔しいよ...!
そりゃ、悔しい...。
挙式も来月だったのよ?
親に紹介して、準備もして、何より招待状も送って...仕事が忙しくても頑張って時間作ってたのに!
大好きだったのに...。
これが...悔しくない訳ないじゃない...!」
南くんの胸を叩き、泣きじゃくる。
「それで良いんです、先輩。
辛い時は泣けば良い、胸なら貸しますから。
1人で無理しないでください」
抱きしめ、背中を撫でてくれる南くんの声は優しい。
「先輩...覚悟決まりました?」
「うん...私、復讐する」
「良い子です」
泣いたあとだからか、頭を撫でられると眠くなって来る。
「目元真っ赤になっちゃって...あとで冷やしましょうね。
鼻も赤くなっちゃって可愛い」
「もう...年上をからかわないの」
「俺はいつだって本気ですよ。
好きです。
この気持ちに嘘はありません」
「......ばか」