第1章 終わりと始まり
ふと手書きの招待状に目を落とせば、見える挙式の日程。
私と同じ日、同じ時間、同じ式場。
そっか...。
式場はキャンセルしたんじゃなく、花嫁を入れ替えただけ。
料金は支払い済み。
料理や引き出物も全て手配済み。
あとは挙式を待つだけの状態で、なんの準備もなくて楽だもんね。
その事実が、私を傷つける。
唇を噛んでも、爪が食い込む程拳を握りしめても、悔しさは微塵も紛れない。
「穂乃香〜、同い歳なのに先に結婚しちゃってゴメンネー。
もう26だもんね、結婚焦るよねぇ」
別に焦ってなんかない。
そんな最低な男、こちらから願い下げだわ。
「あ、そうそう。
彼に未練があるからって、あたしに八つ当たりしないでね!」
「大丈夫よ、未練なんてゼロだから」
そうハッキリ告げれば、元婚約者の顔色が曇った。
「可愛くねぇ女...」
「可愛くなくて結構よ。
何重にも着飾って作る可愛さなら、私は要らない」
「酷い!
あたしの方が彼に愛されてるからって八つ当たりしないで!
彼が可哀想よ!」
元婚約者の腕を取り、キッと私を睨むヒメ。
もう、目眩がして来た...。
「行こ!在人!
穂乃香、祝儀は10万だからね!
ちょうだいね!」
「結婚の祝儀に割り切れる数なんて縁起悪いし、そもそも私行かないから」
「酷い酷い!
あたし達同期なのに!
あたしが何をしたって言うのよぉ」
と、顔を押さえて泣き出す始末。
何をしたって、結婚間近の婚約者を寝取ったんでしょうが。
「おい、俺のヒメを泣かすなよ。
謝れ!
ヒメが可哀想だ」
周りも、状況が飲み込めず困惑した表情を浮かべている。
「先輩が謝る必要ないですよ。
大丈夫です」
ソッと肩に置かれた手に、安心する。
「何よ何よ!
酷い〜」
「あ、おい!ヒメ!
お前ら、覚えてろよ...!」
ヒメが走り去り、それを追いかけて元婚約者も去って行った。