第1章 終わりと始まり
「先輩、ご飯食べに行きましょうよ」
お昼休憩に入った時、隣のデスクの南くんが言う。
「お、南、人妻口説くなよ」
「っ...」
「良いんですよ、俺本気で狙ってるんですから。
それに人妻じゃありませんし」
「おー?
まぁ、まだ人妻じゃねぇな。
織田?暗い顔してどうした?
まだ具合が...」
「いえ、大丈夫です!」
「そうかー?
なら良いけど、何かあったら言えよ。
力になるからよ」
「ありがとうございます」
すみません、北見さん...。
事情を知らない北見さんは、首を傾げるものの優しい言葉を掛けてくれる。
「皆さんお疲れ様でぇーす」
聞き覚えのある、特徴的な猫撫で声。
「何しに来たんだよ......」
低く呟く南くん。
そしてザワつく職場内。
それもその筈、私の婚約者だと思っている相手が別の女と腕を組んでいるのだから。
「あたし達、結婚することになりましたぁ。
挙式は来月です」
手書きの招待状を笑顔で配るヒメ。
「穂乃香も、もちろん祝ってくれるよねぇー?」
......どうして私が出席しないといけないのよ。
隣に居る南くんがずっとヒメを睨んでいたけど、そんなのお構いなし。
「はぁい、晴人くんも。
絶対来てね!」
「いや、俺は...」
「ほら、晴人くんにも幸せを分けてあげるの!」
無理矢理押しつけた。
「式場は1番高いトコ。
料理はフランス料理でぇ、3回お色直しするの」
「......」
ヒメの話す内容には、覚えがあった。
「私のと......同じ...?」
ヒメの声に掻き消されて、周りに私の呟きが届くことはなかった。
「ふふ、彼の奢りなの!
ほら、指輪も!」
ヒメの左手薬指で輝く指輪には、見覚えがあった。
昨日、私が鍵と一緒に置いて来たものだ。
使い回しなんて、最低...。