第5章 真白な涙
あれは第一補佐官としてははじめて現世に亡者の回収に行った時。
女湯や寝所など、あれやこれやと欲望が集中しそうな場所を狙って、大方の仕事を終えて。
そろそろ帰ろうかというころに、通りで妙な話を耳にした。
「なぁ知ってるか、椿姫の噂…」
「あぁ可哀そうだったな…まだ子供だったのに。なんでもご病気でお亡くなりになったんだって?」
「違ぇよその先だよ。亡くなった後、死体が消えたんだってよ」
「死体が消えただぁ?んなことある訳ねぇや」
「うちの隣に住んでる奴が視たって。鬼みたいな姿だったと」
「怖ぇなぁ。…まぁ、姫様だって恨みもあるだろうよ。人形と変わらない人生だったもんな」
「あぁ、村人みんな呪われるんじゃねぇかって噂だ」
「頼むから早いうちに成仏してもらいてぃなぁ…」
「…」
死体が消えた、だと。
勿論デマの可能性もあるが…今日回収した中にも、最近三途の川を渡った亡者の中にも、この地域の姫はいなかった筈だ。
「…仕方ありませんね」
回収してから帰るか。
鬼灯はそう決めて、情報収集のため歩きだした。