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黒猫の悪戯

第5章 真白な涙


***
亡者は未練のある場所へ残る傾向が強い。
まずは彼女がいそうな場所に関する情報を集めることにした。

……が。


「椿姫?あぁ、あの優柔不断な娘っ子な。あいつが無理なことばかり言うから民の生活が苦しいんだ。正直、俺が嫌いだね。あ?行きそうな場所?そんなん知るか」


名前を聞いて憤る者。


「姫ねーちゃんのことでしょう?私、一緒に遊んでもらったことあるよ!大好き!!…え。姫ねーちゃん、死んじゃったの…嘘。また今度遊ぼうねって言ったのに…」


彼女の死を知り嘆く者。


「そうかい…お亡くなりになったのかい…可哀そうに。いや、でもこのほうが姫様にとってはよかったのかもしれないねぇ…人形として生きるなんて、辛いだろう。あの子にとっては」


そしてたびたびでる『人形』という言葉。
鬼灯は人のよさそうな老婆に尋ねた。


「すみません、その『人形』というのはなんなのでしょう?」

「あれま、知らんかね。旅のお方かい?」

「まぁそんなもんです」

「まぁ、余所の人は知らんさね」


目を細めて鬼灯を見てから、老婆は語る。


「この土地の一番の権力者は、本当な姫様なのよ。でも先代が亡くなって姫様がこの土地を継ぐ時、姫様はまだお小さくてねぇ…大きくなるまでの代替として、実質この土地の政治は先代の弟君が仕切ってたんだ。その弟君がまた乱暴な奴でねぇ…」

「ほう」

「民に重税を課したり、無茶な統治法を作ったり。ただ実質弟君が作った決まりでも、名目上は椿姫の名前で出されるのさ。姫様は女だし、まだ若いし、周りに味方もいないし…自分が納得いかないことでも、そのまま進んでしまうことのほうが多かっただろうね…。『人形』てのはそんな姫様を皮肉った言葉さ。私は、あまり好かん」

「……そうですか」


お話ありがとうございます、と鬼灯が立ち去ろうと背を向けた時。
老婆から声が掛った。


「鬼のお兄さん、頼むから姫様を地獄になんか連れて行かないでおくれよ。私は貧乏だし、見ての通り足も悪いからお墓に銭も置けないけど…ちゃんと姫様のこと知ってる奴は、姫様のこと好きなんだよ。本当だよ」


鬼灯は振り返る。


「何故、私を鬼と…?」

「老人にはいろいろわかるもんさ。頼んだからね、姫様のこと。あの子は本当に、ただのいい子なんだから」

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