第5章 真白な涙
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亡者は未練のある場所へ残る傾向が強い。
まずは彼女がいそうな場所に関する情報を集めることにした。
……が。
「椿姫?あぁ、あの優柔不断な娘っ子な。あいつが無理なことばかり言うから民の生活が苦しいんだ。正直、俺が嫌いだね。あ?行きそうな場所?そんなん知るか」
名前を聞いて憤る者。
「姫ねーちゃんのことでしょう?私、一緒に遊んでもらったことあるよ!大好き!!…え。姫ねーちゃん、死んじゃったの…嘘。また今度遊ぼうねって言ったのに…」
彼女の死を知り嘆く者。
「そうかい…お亡くなりになったのかい…可哀そうに。いや、でもこのほうが姫様にとってはよかったのかもしれないねぇ…人形として生きるなんて、辛いだろう。あの子にとっては」
そしてたびたびでる『人形』という言葉。
鬼灯は人のよさそうな老婆に尋ねた。
「すみません、その『人形』というのはなんなのでしょう?」
「あれま、知らんかね。旅のお方かい?」
「まぁそんなもんです」
「まぁ、余所の人は知らんさね」
目を細めて鬼灯を見てから、老婆は語る。
「この土地の一番の権力者は、本当な姫様なのよ。でも先代が亡くなって姫様がこの土地を継ぐ時、姫様はまだお小さくてねぇ…大きくなるまでの代替として、実質この土地の政治は先代の弟君が仕切ってたんだ。その弟君がまた乱暴な奴でねぇ…」
「ほう」
「民に重税を課したり、無茶な統治法を作ったり。ただ実質弟君が作った決まりでも、名目上は椿姫の名前で出されるのさ。姫様は女だし、まだ若いし、周りに味方もいないし…自分が納得いかないことでも、そのまま進んでしまうことのほうが多かっただろうね…。『人形』てのはそんな姫様を皮肉った言葉さ。私は、あまり好かん」
「……そうですか」
お話ありがとうございます、と鬼灯が立ち去ろうと背を向けた時。
老婆から声が掛った。
「鬼のお兄さん、頼むから姫様を地獄になんか連れて行かないでおくれよ。私は貧乏だし、見ての通り足も悪いからお墓に銭も置けないけど…ちゃんと姫様のこと知ってる奴は、姫様のこと好きなんだよ。本当だよ」
鬼灯は振り返る。
「何故、私を鬼と…?」
「老人にはいろいろわかるもんさ。頼んだからね、姫様のこと。あの子は本当に、ただのいい子なんだから」