第4章 私室侵入大作戦!
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バタバタと走り去る椿の背中を見送った鬼灯は、ベットに腰掛け深くため息をついた。
「(まったく。何考えてるんでしょうかあの考えなしの子猫ちゃんは…)」
人の気配を感じて目をあけたそこに、柳川さんがいた。
驚くことも忘れて覚醒しないままの頭でぼうっとしながら眺めていたら、今撮ったばかりであろうポラロイドカメラの写真をじぃっと見てからにへらっと笑い、すぐハッと絶望した表情になって、しゅんとして、苦悩して。
どうせ適当な悪戯でも考えて後悔してたんだろう。
そんなことが手に取るようにわかってしまうほど、鬼灯と椿の付き合いは長い。
わかっていたのにも関わらず、意地悪な追い返し方をしたのは勿論学習とお仕置きのためだ。
これでもう二度と無防備に男の寝室にはいったりはしないだろう。
私が据え膳食わぬ慎み深い男子でよかったですね。
「(まぁあそこまで顔真っ赤にされるとさすがにそそられるものはありましたが…)」
あそこで理性を吹っ飛ばすほど青くはないし、何もしないで帰すほど大人でもない。
鬼灯はがしがしと頭をかいてから、腕を組む。
あれほど私に好きだ好きだと言っているのに、そういう警戒心とか期待感とかはないのだろうか。
私に組み敷かれた時のビクリと肩を震わせた様子は、『男女の関係なんて予想もしていなかった』と言わんばかりだった。
…あれだ。
やはり彼女のいう好きはチョコが好きとかピンクが好きとかそういう部類のものなのだろう。
先日シロにも訊かれたことではあるが、彼女が私に求めるのはきっと恋人の立ち位置ではない。
ようするにただのお気に入りなのだ。いい猫じゃらしとか、またたびとかそういう仲間。
「(…そうわかっているんですがねぇ)」
なのにこの振り回されようは一体なんなんだろう。
その理不尽さが鬼灯をいらだたせる。
寝不足で回らない頭が余計に思考の邪魔をする。
駄目だ限界だ。もう一度寝よう。
ベットに横になった鬼灯は、出会ったばかりのころの椿を思い出した。
「昔はあんなんじゃあなかったんですが…ね」
人というのは変わるものだ。
もう一度深くふかーくため息をついてから、鬼灯は布団をかぶって目を閉じた。