第1章 悪戯好きの黒猫
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「あ、いた」
鬼灯様発見!スケジュール通り針山にいた。
すぐ掛け出そうとする唐瓜くんの襟をクイッとひっぱって止める。
で、こそっと耳打ち。
「お願い!ちょっとだけ待っててくれない?私先に行くから」
「あ、はい」
「ありがと!ちょーっとだけ静かにしててね」
「??」
おかしな依頼に首をかしげる唐瓜くんだったが、一応頷いてくれた。
それを確かめてから、私は抜き足差し足忍び寄る。
勿論気配は消して。
どきどきわくわく。
このスリル感がたまらないのだ…!!
私の心臓は早鐘のように鼓動を刻んでいた。
都合のいいことに、鬼灯様は現場からの説明に集中しているのか、針山を向いたまま私には気付かない。
私と鬼灯様の距離は、もう1メートルを切っていた。
どきどきにやにや。
よし。せーのっ
「とりゃっ!!」
「ッ!?」
ガクンと膝をつく鬼灯様。
ふふふ…どうだ見たか椿・奥義!
忍び☆膝かっくん!!!
「あっはははははーーーー!!!!」
全力で笑う椿には、当然の如く制裁が飛んできた。
ブンッ
ゴンッ
ズシャーッッ
「おうふっ」
「椿さん!!?」
顔を青くして私に駆け寄る唐瓜くん。
でもなんでかな…君の顔がにじんで、よく見えないんだ…
やっぱ金棒って痛いよね…フツーに吹っ飛ぶよね…
大丈夫かな私?温かい液体が頭から流れてる気がする…
「まったく…柳川さん、何くだらないことをやってるんですか。置いてきた仕事、終わったんですか?」
「仕事の心配ですか!!私は!!?」
「いつものことじゃないですか」
唐瓜は思った。いつものことなのか…と。
「でも酷いですよ!私は大好きな鬼灯様ともっと親睦を深めたいだけなのに!!選んだ方法がボディータッチだっただけで…!」
「ずいぶんと乱暴なボディータッチですね」
これがそもそもボディータッチに分類されるのかは甚だ疑問である。
「しかし油断しました…柳川さん如きに背後をとられて気付かないとは。屈辱です」
「そこまでいいます!?私がここまで極めるのにどれだけかかっ……あ、これ駄目だ。なんか大きな声出したら頭が…」
うっ、と俯いて再び地面にへばる椿に、鬼灯は『自業自得です』と正論を浴びせた。