第10章 燭台切光忠
審神者の息遣いが、燭台切の腕の中で弱々しくなっていく。
不意に審神者が咳き込み、唇の端から血が溢れる様に流れた。
涙を流しながら、審神者は燭台切の頬に手を伸ばした。
主「私の…初めての…刀。燭台切の…こと、大好きだっ…た…もっと……いっぱい、話したい…こと…っ…あった…の………に」
燭台切「あ…るじ?主!!!」
燭台切の頬に触れる事も叶わず、審神者の腕は力無くだらりと垂れた。
燭台切の腕の中で、審神者は息絶えてしまったのだ。
燭台切は俯いた。
涙に濡れた審神者の頬に、新たな雫が一滴零れ落ちた。
燭台切「……君に分かるかい?主がどれ程痛かったか、どれ程不安で怖かったのかっ」
審神者を抱き締め、燭台切は男に話し掛ける。
その声には哀しみと怒りが入り交じっていた。
燭台切「ごめんね……ごめん…」
審神者を見下ろし涙を流す燭台切を見て、男はほくそ笑みながら刀を手に、燭台切の背後に立っていた。
そして、刀を振り上げた瞬間。
燭台切「僕は、この子に格好悪い所を見せる訳にはいかないんだ…っ」
静かな時間であった。
床に投げ出していた太刀を取り、背中を向けたままに片手で男の胸を一突きに刺した。
審神者の体を片足で支え、もう片方の手を刀の柄に添えて深く突き刺す。
持っていた刀を自らの背後に落とし、男は倒れ込んだ。
その姿を見る事も無く、燭台切は刀を振るい血を払うと鞘に戻し、審神者を抱き上げて本丸へと帰還した。
案内をしてくれた太鼓鐘は、本丸の前で座り込んだまま、事切れていた。
刀剣男士達は皆、無事であった。
太鼓鐘は縛られて審神者部屋の押し入れに閉じ込められていた。
生前よく燭台切と行った沢山の菖蒲が咲く場所に、審神者が埋葬され、墓が建てられた。