第10章 燭台切光忠
本丸内には、意外にもすんなりと入る事が出来た。
まるで、燭台切が来る事が分かっていたかの様に。
燭台切は真っ直ぐに、本丸の最上階を目指した。
最上階にはきっと、審神者部屋がある。
最上階に着くと、一際大きな部屋を仕切る襖が目に入る。
最上階には、鼻奥がツンと痛む程の腐臭が立ち込めていた。
燭台切は意を決し、襖に手を掛け、そして開けた。
次の瞬間、想像を絶する光景が待ち受けていた。
首を切られ、床には胴体が、天井からは拐われたであろう女審神の首が数えきれぬ程ぶら下がっていた。
燭台切「こ…れは……」
男審神者「遅かったなァ」
語尾を伸ばした、ひっくり返りそうなのにそうならない、湿度の高い粘ついた不気味な声音が耳に届く。
声のした方に目を向けると、男の手には主である審神者が居た。
血塗れではあるが、まだ息がある様子だった。
燭台切「っ!!…主!!」
主「しょ…く…だ……きり…」
途切れ途切れながら、燭台切の名を呼ぶ審神者。
ゆっくりとだが腕を持ち上げ、審神者は右手を燭台切へと向かって伸ばす。
燭台切は刀を抜いて駆け寄った。
男へと向かって刀を振るうも、男は寸での所で避け、後ろへ飛び退いた。
その隙に燭台切は審神者を抱き上げ、男から距離を置いた。
燭台切「主…主…っ!」
主「…燭台切……ごめ…ん…ね」
主は何も悪くない!
そう叫びたいのに、上手く声にならなかった。
苦し気に言葉を紡ぐ審神者、見れば彼女の首は大きく切り裂かれ、腹は短刀が突き刺さっていたのだろうか…血が溢れていた。
燭台切は腹部を手で押さえてみるも、意味が無いとばかりに血が隙間から溢れ出る。