第10章 燭台切光忠
太鼓鐘を抱き上げ、本丸へと帰還した燭台切を待っていたのは、血を流し倒れた刀剣男士達だった。
大倶利「……悪い」
一言だけ発し、瞼を閉じる大倶利伽羅。
そんな短い謝罪でも、燭台切には充分であった。
しかし…見渡せば見渡す程、襖や障子に柱までも血飛沫が飛び散り、赤く染め上げられていた。
それだけの死闘を迫られる程、敵は強敵という事だ。
結果、此れだけの人数を相手に、主を連れ去ったのだ。
燭台切「何処に行ったか、手掛かりは?」
怒りを抑え込んでいる様な、低く、且つ喉奥を僅かに震わせながら倒れている刀剣男士達に問う。
太鼓鐘「光っちゃん、俺が案内する…ぜ」
燭台切「でも貞ちゃ……分かった、じゃあお願いするよ」
弱々しく立ち上がる太鼓鐘、燭台切が制止しようとするも、その真っ直ぐに己を見据えてくる視線に、燭台切は静かに頷いた。
戦装束を身に纏い、腰に刀を差す。
そして、燭台切と太鼓鐘は本丸を後にした。
太鼓鐘はどうやら、北に向かっている様子だった。
何故分かるのか、そんな事はどうでも良かった。
主を早く助けなければ、燭台切にはその想いしか無かった。
太鼓鐘「此処…だぜ…」
燭台切「有り難う、貞ちゃん」
燭台切には分かっていた、この太鼓鐘が自らの本丸に居る太鼓鐘では無い事を。
しかし、あえて何も言わなかった。
この太鼓鐘を苦しめる傷は紛い物では無く、今も流れ続ける血で、太鼓鐘のズボン迄もが赤く染まっていたから。
燭台切は、目を細めた。
此処に主が捕らわれている、苛立ちを爆発させてしまわぬ様に唇を血が滲む程噛み締めた。