第9章 三日月宗近
夜、三日月はいつもの様に審神者部屋へと赴いた。
三日月「主、まだ起きておるのか?」
主「ああ、三日月。ええ、今夜は少し調子が良いんです」
そう言って浮かべた彼女の笑顔は、床に臥せる前の明るさを思わせるものだった。
ドキン、と高鳴る胸の鼓動の中心で、僅かな不安の色を隠しながら三日月は笑顔浮かべ、一つ頷いて見せた。
三日月「それは良い事だ。ならば、月でも見に行かぬか?」
主「ええ、私も言おうと思っていたの!」
三日月の申し出に、審神者は満面の笑顔を返した。
審神者は抱き上げられ、三日月の温かさに包まれる。
そして、二人は月の見える縁側へと腰を下ろした。
主「今夜は三日月だったのですね…いけませんね、月の満ち欠けすら忘れていました…」
三日月「………」
月の光に照らされた彼女の横顔はとても美しく、また、とても儚げであった。
まるで、彼女がかぐや姫で、今にも月の使者に連れて行かれそうな…そんな不安が三日月を襲う。
三日月は思わず手を伸ばす、指先が彼女の頬に触れる。
主「三日月には、いつも弱い私ばかり見せてしまいました…」
そんな事は無い、誰よりも強く、また誰よりも凛とした主。だからこそ、三日月自身も決して弱音を吐かなかった。いや、吐けなかった。
三日月「主。俺はな、思うのだ。強さとは、弱さとは、答えは決して一つでは無い」
審神者は黙って三日月を見つめる。
三日月「俺はな、人に優しく人を慈しめる者こそ、真に強き者だと思うのだ。主はもう既に強いではないか、それ以上、強くならんでくれ…」