第1章 其の血の味は終ぞ知らず
前回の任務からしばらく経った今日、召集の文書が届いた。
CP-9の任務は不規則に言い渡される。
任務は単独で数時間のうちに完了するものもあれば、複数人で数年かけて遂行するものまでと幅広く、その時々に応じた諜報員がアサインされる。
エニエス・ロビーに招集されることも、政府の用意した各地拠点で任務を言い渡されることもあった。
単独行動を好む私にとっては、ツーマンセル、二人一組が最も苦手な単位であった。
にもかかわらず、今回はよりにもよって、あのロブ・ルッチと組まされてしまったのだ。
ロブ・ルッチといえば、13歳でCP-9の諜報員となった天才、残忍冷徹な男として有名だ。
これまでも、任務の前はそれなりに気を張ってきた。
しかし、今回ばかりはいつもに増して気が重い。
私は渋々と準備を済ませ、政府指定の場所へと移動した。
*
「お前がxxxxか?せいぜい足を引っ張るなよ」
指定日時に政府の船、所定の船室へ辿り着くと、そこには私と同じ黒いスーツに身を包む長身の男が立っていた。
冷たい眼差しと威圧的な態度。
静かな声色は、安堵よりも畏怖を感じさせる。
年齢は二十歳前半の、私と同じくらいに見えた。
肩には鳩?が止まっている…。
牽制されたものの、会話はできそうだ。
私は戸惑いと気後れを、極力見せないよう努めて返答した。
「留意します。えーと、ミスター・ロブ」
「ルッチでいい」
「では…ルッチさん。早速任務内容の確認を」
任務は、ある権力者の暗殺と機密文書の入手。
側近に能力者が数名いるとのこと。
「標的の所在及び能力者の人数・能力は現時点で不明。政治的要素が絡んでいるので、暗殺は翌日まで誰にも悟られぬよう静かに且つ速やかに遂行しなければなりません。現地の状況を鑑みながら臨機応変な戦略立案と対応が求められー」
いつもの調子で任務の要点を確認している時、ルッチが口を割る。
「お前の功績と評価は知っている」
「…それは光栄です。私も貴方の噂は存じてます。知らない方がおかしいかもしれませんね」
「今CP-9は他にも厄介なヤマを抱えていると聞いているが、お前を優先的にここへ寄越してきたということは、それなりの仕事だろう」
そう、ルッチの言う通り、これは未知条件の多い高難易度任務だ。
私ではなく、彼がここにいることが何よりの証拠だった。