第1章 其の血の味は終ぞ知らず
サイファポールNo.9に属するようになって数年が経つ。
市民の殺しを合法的に許可されている、この物騒な諜報機関に身を置くのは、単に食うためであった。
ここでは訳ありのならず者であっても、手柄を立て続ければ組織に身を守られ、報酬を得ることもできる。
戦争孤児だった私は、例に漏れることなく真っ当に生きていくことはできず、幼い頃から裏家業に手を染めていた。
それをたまたま拾ったのが、孤児院でも海軍や海賊でもなく、サイファポール-CP-だった。
CPは常時、人材の引き抜き以外にも私のような都合の良い人間を集めており、教育などにより振るいにかけ、優れた能力を持つ者を選抜していた。
私にもその筋があったらしく、CP-9の諜報員に選ばれた。
私としては、食っていけるなら稼ぎの手段など何でもよかった。
この手を黒く染めても、最早後ろめたさはない。
故郷も無ければ、悲しむ家族や友と呼べる存在もいないのだから。
まして、富や力、世界の行方にも興味がなく、関心ごとがあるとすれば、読書くらいだ。
私の人生は、食うに困らず、時々静かな場所でゆっくりと読書ができれば尚良い。
読書というもの、本というものは善い。
家族のいる生活、心理や心情、善しとされる戦術、未知の生物--、自分にない全てを満たしてくれる。
満たすと言うよりは、身体に空いた穴を補完する行為のように思え、それはとても居心地の良い時間であった。
自分の人生を悲観も達観もせず、傾くことなく生きてこれたのは、本に出会えたおかげではないだろうか。
どんな人生も、配られたカードで勝負するしかないのだ。
(これもまた、本が教えてくれたことだ)
客観的にも自分は変わり者のように思えるが、CP-9においては極めて凡人である。
政府と枕詞が付くとはいえ、異端、曲者、非凡なる者の集まりなのだから。